17、体
「虎郎、あなた、落ち込んでるの?」
「ううん。落ち込んではないよ。山の中なんていっぱいあるもんね。違う山だったかもしれないし」
ころんころんと転がっていると、花子ちゃんに声をかけられた。
あの日、はやてくんが帰っていった後、少し周りをぐるっと回って、川のあるあたりにも行ってみたりしたけど、ぼくの記憶に引っかかる景色はなかったし、ぼくの体が近くにある感じも全然しなかった。
ちょっぴり残念に思う気持ちもないことはないけど、体から長いこと離れてしまうことも、その辺りの自分の記憶が何だかあいまいなことも、初めてのことすぎて、よく分からないなぁというのが正直なところだ。
落ち着いてじっくり考えたら、いつか何かを思い出すかもしれないし、色んなところをうろうろしたら、見覚えのある景色があるかもしれないし、何より正人くんのおうちはとても居心地がいいので、のんびり探していればいいやと思ってる。体がないと、自分であれこれできないのは困るけどね。
そんな風なことを話すと、花子ちゃんはそれなら良かったわ。と返してくれた。花子ちゃんは、時々そっけないけど、優しい女の子だと思う。
階段を上ってくる足音に、ぼくはぴょんと浮き上がった。お昼ご飯の時間にはまだ早いし、足音は二人分するから、お客さんかな?
トントンと聞こえてきた足音はぼくたちがいる寝室の前で止まって、ドアが開く。
「あれっ」
微笑んだ正人くんの後ろで何だかもじもじしているのは、はやてくんだった。
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