16、疾風

「ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして。良かったわね」

「あぁ。本当にありがとう。……早く帰らないと」

「そうね。早く帰ってあげて」

 花子ちゃんの言葉に、はやてくんはもう一度深く頭を下げて、くるりと背を向けて走り始めた。

 はやてくんの背が縮んで、四足になって、灰色の狼の姿が現れる。それからサイズが少し小さくなって、色が茶色っぽく変わる。

 口にボールを咥えた、中型犬にしか見えない獣が、森を駆け抜けて去っていった。

「はやてくんって」

「どっかで飼い犬やってるのよ、きっと」

「花子ちゃん、分かってたの?」

「あたしは何でも知ってるのよ。虎郎」



はやて!お前、どこに行ってたんだよ!


―ボール!取ってきたぞ!


ボール?お前もしかして、あのボール、取りに行ったのか。水、苦手なのに。潜ったのか?お前。


―ボール、なくなっちゃったから駄目だな。って言ってたろ?これがあったらできるんだよな!な!


いやもううるせぇ!何言ってんだか分かんねぇから!でも、そうか……戻ってきちゃったな。ボール。


―これでまた、野球できるな!ってやめろ!ぐしゃぐしゃするな!毛並みが乱れるだろーが!


あーくそお前、暴れやがって。……ありがとな、はやて。そうだな。もうちょっと、頑張ってみようかな。

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