14、ボール

「虎郎、あなた泳いで取ったりはできない?」

「うーん、多分沈めない気がする。あとボールを取るのが無理」

「そうよね」

 花子ちゃんの言葉に返事を返す。頑張って潜っても、ボールをつかんだり運んだりするのは難しそうだ。口でくわえられる大きさでもないし。

「そこ、深さはどのくらい?」

「うーん。多分……50センチくらい、かなぁ?もうちょっとあるかもしれない」

 今度は正人くんの声がして、それにも返事を返す。

「歩いてギリギリいけるかな」

「ガラスとかあるから、靴は履いてたほうがいいよ」

 正人くんが頷いて、ズボンのすそに手をかけて、そうしたところではやてくんが正人くんの肩に手を置いた。二人は何やら会話を交わして、はやてくんがすぽんと靴を脱いでズボンを脱ぐ。現れた足は毛深い狼の足だった。


 そろりとはやてくんが池に足を踏み入れる。水に触れた瞬間、ぎゅうっと目を閉じたはやてくんは、正人くんに何か言われて首を振った。

 ゆっくりゆっくり、はやてくんがこっちに近づいてくる。時々立ち止まって、きょろきょろ周りを見回して、ゆっくりゆっくり近づいてくる。

 そしてついにぼくの前までやってきたはやてくんと目が合った。

「虎郎、ちょっと借りるぞ」

「へ?んべっ」

 はやてくんの大きな手が、ぼくの頭を掴む。そしてそのまま押し付けられる。

 まままって、重たい!重たいよ!

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