10、依頼者
飛び込んできたのは若い男の人だった。少し青ざめている。
「入口が二階の窓しかないってどういうことなんだ?俺誰にも見られてないよな?」
「あら、別に玄関から入ってきてくれても良かったのよ?」
「はぁ?」
「呼び鈴でも鳴らしてくれたら、案内してくれたのに」
「何だよそれー」
男の人が崩れるように脱力した。あの猫野郎話が違うとかぶつぶつ言っている。
「まぁ過ぎたことは仕方ないわ。ようこそ狼男さん」
「狼男!?」
「おわ、首!?」
びっくりして叫んでしまうのと、狼男さんがぼくに気づいて驚いた声を上げるのとはほとんど同時だった。間に挟まれる位置の花子ちゃんから、くすくす笑う声が聞こえる。
「声はもう少し小さくして頂ける?下の階の人がびっくりしちゃうでしょ?」
「あ、悪い。……いや、じゃないだろ。何だよ調子狂うな」
「花子ちゃん、この人が狼男だって、どうやったら分かるの?ぼく、お化けだろうなっていうのはにおいで分かるけど、どんなお化けなのかは分からないよ」
「あたしは鼻がすごくいいのよ」
花子ちゃんがにっこり笑ってそう言う。そういうものなんだろうか。
狼男は、確か満月の夜だけ狼の姿になってしまう人間だから、どちらかというと人の方に近いと思っていたんだけど。そう言うと、狼男さんは、そういうのもいるけどな。と返した。
「俺はどっちかというと逆だな。ヒトになりかかってる狼のタイプ。満月の時にはヒトにはなれないって感じだ」
「ふえー。そうなんだ」
「それで」
狼男さんとぼくの会話を遮るように花子ちゃんが言う。
「依頼は何かしら?」
あぁそうだった。と狼男さんが言って、花子ちゃんに向き直った。
「探し物をしてるんだ」
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