7、転がる

 目を開いたら朝だった。夢は見なかった。

 起きていた正人くんに連れられて、居間に移動する。浮かんでいくこともできるんだけど、人に運んでもらった方がやっぱり楽だ。

 朝ごはんの準備をするという正人くんはそのまま台所に向かって行って、ぼくは床に転がってボケっとしていた。

「床に転がってたら踏まれるわよって言ったでしょ」

 声と同時に何かがぶつかる感触がして、ぼくはぐるぐる転がってしまう。あわわわ目が回るよぅ。

「花子さん。何してるの」

 転がってテーブルの下に潜り込んでしまったぼくの耳に、正人くんの声が聞こえた。ちょっぴり低い声。

「世の中危険がいっぱいよって教えてあげてたのよ」

「だからって蹴飛ばさない。虎郎くん、大丈夫?」

 テーブルの下を覗き込んでくる正人くんに、大丈夫だよと飛び上がって、頭に衝撃を感じた。

「びゃっ」

「あっ」

「馬鹿じゃない?」

 伸びてきた正人くんの腕に引っ張り出される。はわわ世界が回っているよぅ。

 くらくらするぼくの頭を、正人くんがよしよしと撫でてくれる。ふるふる首を振って、ぱちぱち瞬きをしたら、しゃんとした。

「正人くん、ありがとう。大丈夫だよ」

「大丈夫?」

「大丈夫。ぼく、頑丈なんだよ。よく転がっちゃうからね」

「そう?でも何かあったら言ってね。花子さん」

「テーブルに頭をぶつけたのはあたしのせいじゃないわよ」

「転がったのは花子さんのせいだろう?」

 ちっ、と舌打ちする音が聞こえた気がする。いやまさかこんな小っちゃくて可愛い子がそんなね。まさかね。

「蹴飛ばして悪かったわね」

「ううん」

 正人くんの腕の中にいるから、花子さんは上目遣いにぼくを見ている。可愛い。

「ぼくも床に転がるのはやめるよ」

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