5、花子ちゃん

「虎郎」

 お風呂から上がって正人くんに髪を乾かしてもらってのんびりしていると、同じように風呂上がりの花子ちゃんが隣に来た。

「あなた床に転がってたら踏まれるわよ」

「わぁ」

 言いながら足が迫ってきたので、ぼくは慌てて宙に浮かび上がった。ちっと舌打ちする音が聞こえた気がするけど、気のせいだよね。

 テーブルの上に首を落ち着けると、花子ちゃんが近くに座った。正人くんは、ご飯の準備でいなくなっている。いい匂いがしてくるからそろそろだろう。

「花子ちゃん」

「なぁに」

「花子ちゃんは依頼者だったの?花子ちゃんも妖怪だよね。何の妖怪?」

「あたしは別に依頼者じゃないわよ。ここのトイレに住んでるの。そういう怪」

「トイレに住む妖怪?」

「ものすごく簡単に言えばそうね。元々住んでたところがあるんだけど、取り壊しが決まったから出ていくことにして、流れてここにたどり着いた感じね」

 花子ちゃんは、色んな所を見て回って、それで最後にここに住むことに決めたんだって。そっか。

 ご飯の良い匂いが漂ってくる。ぼくの体はここにないのに、ぐぅと鳴るお腹の音が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る