さみしさ図鑑

水上歌眠

さみしさ図鑑

終点で横浜線は折り返す 逆再生にはならない不思議


ボーダーのTシャツを着て母に会う(囚人服と言われるだろう)


前の椅子 前の隣の椅子 前の隣の前の椅子 この椅子


しあわせが多角化された都市にいてすべての角度の視線が刺さる


派遣の、と呼ぶ人 そしてあの人は悪気はない、というワンセット


アンティークのコインは役に立たないと言った人から蓮になってく


面談をだまって耐えた日の影をすずらん畑に横たえてやる


ひつじ雲 十年後のビジョン そんな未来はないとお互いに知っている


誰の死もわずかな荷物挟まりもひとしく非常ベルの音量


戻りますか、原さんがそう言ったとき煙はまるくなるのをやめた


公園の鳩一斉に打ち上げたわたしふうせん割った日のこと


ドからドへ届かなかったさみしさはさみしさ図鑑には載ってない


どうしても幻視の家に着かなくてそれからずっとずっと遠足


どこまでも沈める夜はみなそこでそっと真珠を育てましょうね


公園の終わりにつけばそこからは公園じゃない世界を歩く


晴れた日の ゆっくり冬に向かう日の父はたしかに鳥に似ていた


切株になるときに樹は年輪を輪として閉じる 自叙伝の結末


七色の炎色反応もつ人はきっと火葬場で発見される


焼けるのか焼け残るのかじぶんとの約束という臓器がひとつ


終点で横浜線は折り返す どっちに進んでも 進んでる

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