29 答え

「何だか、似たようなことがあった気がする」

「似たようなこと?」

「うん。同じようにすごく風が吹いて、すごく雨が降って、隙間風がすごくって、とても寒くて」

 僕の腕の中で、みちるさんが震える。まるで今でも寒いみたいに。だから僕は、もう少しだけみちるさんを体に近付けた。

「まだ、わたしには体があったんだ。頭のてっぺんから足の先まで全部寒かった。布団を被ってもちょっとしかあったかくならなくって、ずっと震えてた」

「みちるさん、寒い?」

「ううん。今はあったかいよ。ありがとう。あおくん」

 そんなことを言いながら、みちるさんはふるふると震えている。昔の寒さを思い出しているんだろうか。

「冬のもっとずっと寒い時より寒いと思ったから、もしかしたら病気だったのかもしれない。家はミシミシいってグラグラ揺れるし、風の音がするたびにびっくりした。でもね、おばあが。一緒に暮らしていた人が、そしたら抱きしめてくれて」

 みちるさんのぱっちりとした目が、僕の向こう側を見ている。

「おばあの体はあったかくて、一緒に布団に入ったのは初めてだったけど、すごくあったかくて、おばあの腕が思ったよりずっと柔らかくって、それでおばあが言ったんだ」

 みちるさんの震えは、いつの間にか止まっていた。

「大丈夫だよ。って。雨はちゃんと止むし、朝はちゃんと来るし。寒いのもちゃんと終わる。自然っていうものは、そういう風にできてる。時間が全部連れてってくれるし、連れてきてくれる。私たちは待つだけでいい」


『待てばいい。待つだけでいいよ。お幸。全部全部、待つだけで大丈夫だよ。明日は来る。大丈夫。お幸』


「おこう。だ。そうだった。おばあは確かにわたしをおこうって呼んでた。幸せ。で、お幸」

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