28 かわたれどき

 ガタガタと窓が風で鳴っている。山の天気は変わりやすいというけど、今日のこの天気の変わり方は、いつもとちょっと違っていた。

「あおくん、やっぱり泊っていった方がいいよ」

 よし子さんがそう言って、僕の家に電話をかけてくれる。よし子さんとお母さんが話している間にみるみる暗くなってぽつんと水が落ちたと思ったら、一瞬で大雨になった。

「あおくん。すごい雨だねぇ」

 僕の腕の中で、みちるさんがのんびりした声を上げる。

「びっくりしたよねぇ。春の嵐かなぁ。大丈夫?あおくん」

 のんびりしたみちるさんの声は、ガタガタビュウビュウ鳴る窓を怖がる僕の心を、少しずつ溶かしてくれた。


 家と違って、畳の上に直接布団を敷く。座布団の上にぐるぐる毛布を巻いた布団?の上に、みちるさんが転がる。

「みちるさん、それだけで寒くない?」

「うん。ふかふかで気持ちいいよ。寒くなったら潜り込むから、大丈夫」

 部屋の戸を閉めると、ガタガタと鳴る窓の音も少しだけ遠くなって、僕も安心して、まるで旅行みたいな状況を、少し楽しく思う余裕ができた。

「あおくん、いっぱいびっくりしたね。大丈夫?」

「うん。みちるさんは、外にいるときじゃなくて良かったね」

「そうかも。でももしもの時は色々潜り込めるところはあるんだよ。もぐりこんで待ってたらすぐだよ。こういうのは慣れてるんだ」

「そうなの?」

「そうだよ。前にもね」

 ぽつんぽつんと話すみちるさんの言葉に、僕は少しずつ眠くなる。あくびが漏れて、目をこすって。「おやすみ、あおくん」って声が聞こえたけれど、返事が出来たかは分からない。


 くしゃん。と、くしゃみの音が聞こえて目を開けた。

 目を開けたところにもう一度、くしゅん。

「みちるさん?寒い?」

「ちょっとだけ」

 起き上がると、ぼんやりみちるさんの姿が見える。朝になろうとしている時間なんだろう。外はもう、静かになっているようだった。

 毛布に潜り込んでいたみちるさんに手を伸ばして、冷えた首を包むように抱きしめて布団に戻る。

「あったかくなった?」

「うん。ありがとう、あおくん」

 僕の腕の中で、冷たかったみちるさんが少しずつあったかくなっていく。

 もぞもぞ動いたみちるさんが、小さく「あれ」と呟いた。

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