24 センタク(※自由変換)→洗濯

「あー!あー!だめだよ!」

 みちるさんのそんな叫び声が聞こえて、僕は急いで声の元に走った。

 縁側にいたみちるさんの姿を見つけるのと、みちるさんが「あー!!」とひときわ大きな声を上げたのはほとんど同時だった。

「みちるさん!」

「あっあおくん」

 僕の姿に気づいたみちるさんがぱっと顔を上向かせ、それから無言で俯いた。

 隣に近頃よく見る茶色の猫がいて、一緒に何やらうなだれているように見える。

「みちるさん、何があったの?大丈夫?」

「うんあおくん。あのね、ごめんね」

 俯いたみちるさんの視線の先、昨日の雨でぬかるんだ地面の上。

 椿の髪飾りが、落っこちていた。


 しゅんとしてしまったみちるさんを慰めながら、僕は拾い上げた髪飾りをよし子さんの所に持って行った。泥で汚れてしまった髪飾りを見て、よし子さんが「あらあら」と声を上げる。

「洗えますか?」

「多分大丈夫だと思うわ。準備をしてくるから、大きな汚れを拭いていてくれる?やさしくね」

 よし子さんが差し出してくれた布を受け取って、そっと泥をぬぐっていく。

「あおくん、ごめんね。せっかくくれたのに」

「いいよ。大丈夫。きっときれいになるよ。なってもならなくても、今度は汚れにくい髪飾り、プレゼントするね」

「でも」

「みちるさん、髪飾りすごく似合うもん。他のも見たいんだ。僕が」

 座った僕の腰のあたりに頭をくっつけるようにしながら、落ち込んだ声をあげるみちるさんに語りかける。

「だからまたつけてね」


 ボウルに洗剤を溶かしたぬるま湯を作ってきてくれたよし子さんに教わりながら、髪飾りをやさしく洗う。じわじわ茶色が溶けていって、水で洗い流すと、少ししわがついてしまったけれど、きれいな色になった。

「しっかり干して乾かしておくね」

 よし子さんの言葉に、お願いしますと頭を下げる。

 うっすら涙を浮かべていたみちるさんも、一緒に首を曲げていた。

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