23 白
ハウスの中でみかんが少しずつ大きくなってきた。摘果するのを手伝わせてもらったり、すっぱいみかんを食べさせてもらったりしつつ、僕はいつも通りみちるさんとも仲良くしていた。
クラブ活動でお世話になっていたよし子さんだったけど、こんなに遊びに来させてもらうようになるとは思っていなかったので、時々申し訳ないな、と思う時がある。
「お礼をしたいなと思うんだけど」
「お礼?」
「うん。よし子さんって、好きなものとか、欲しいものとかあったりするかなぁ」
みちるさんと話していて、ふと、よし子さんの話になった時、僕は思い切ってそう聞いてみた。みちるさんはよし子さんと付き合いが長いし、今だって僕よりずっと長い時間よし子さんと過ごしているから。
「うーん」
首を斜めにしたみちるさんがそのままころころと転がる。向こうの方まで転がっていって、またころころこっちの方に戻って来た。
「あおくん、前掛けはどうかな?よっちゃんいつも前掛けしてるから、きっと喜ぶと思うよ」
みちるさんの言う通り、よし子さんはいつもポケット付きの前掛けをしていた。色んなものを出してくれるので、まるで魔法でもかかっているみたいな不思議な前掛け。
「うん。いいかもしれない。みちるさん、ありがとう」
「にひひ。喜んでくれたらいいね」
すぐに図書室で本を借りてきて、みちるさんと一緒にデザインを選んだ。お小遣いで真っ白い布を買った。
毎日少しずつ縫って一ヶ月。ようやく出来上がった前掛けをまずはみちるさんに見せると、「おぉー。すごいすごい!ばっちり」とお墨付きをもらえたので、綺麗に包みなおしてよし子さんのところに向かう。
にっこり笑って迎えてくれるよし子さんに、包みを差し出す。
「あのね、いつもありがとう。これ、いつもお世話になってるお礼です」
「あらまぁ」
包みを受け取ったよし子さんに開けてもいいかと尋ねられて頷く。よし子さんが包みを開けて、もういちどあらまぁと呟く。つけていた前掛けを外して僕のあげた真っ白な前掛けをつけて、よし子さんはにっこり笑った。
「すごく素敵ね。あおくん、ありがとう」
よし子さんにギュッと抱きしめられる。ちらりとみちるさんを見ると、みちるさんはぴょんぴょん跳ねていて、僕と目が合うと、にひひ。と笑った。
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