19 置き去り

 ずーっと昔に首だけになっちゃう前、わたしに体があったときのことも、あんまり覚えてないんだ。わたしは一人で暮らしていた気もするし、誰かと一緒だった気もするし。でもね、普通の人でなかったことはないと思うんだ。どうして首だけになっちゃって、どうしてそれでも生きてるのかも分かんないし、正直なことを言うとね、時々どうしてなのかなー?って気持ちでいっぱいになっちゃうときもある。ずーっとあんまり変わらなくて生きてる理由も分かんないし、いつまでこうしているんだろうか。って思うこともあるよ。でも多分、それって皆そうだよね。わたしは首だけになっちゃったけど、普通に生きてる人だって、皆色んな分からないことを抱えて生きてるんだよね。


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 首だけだとできないことも、いっぱいあるよ。あおくんとか、よっちゃんとか、色んな人が助けてくれて、それで色々できてることも、いっぱいあるよ。同じように助けてくれた人が、いっぱいいた。忘れちゃったことはたくさんあるんだけど、でもそういう人がいたってことは、ちゃんと覚えてるよ。置いてきちゃった思い出は、たくさんある。でも覚えていることも、ちゃんといっぱいあるんだなって思うよ。きっと置いてきた思い出は、多分もう、思い出さなくていいことなんだと思うんだ。むぅちゃんのことも、残念だなーって思ったけど、でも多分、あおくんが覚えてくれるって言ったみたいに、むぅちゃんが覚えててくれて、それで話してくれたらいいことなんだろうな。そう思うよ。忘れないように必死になっても、多分忘れちゃうから。会えなくなった人のことは、きっとそこに置いてきた方がいいんだろうなって、そう思うんだ。

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