18 椿
「あおくん!こんにちは」
しばらく振りによし子さんのおうちに行くと、みちるさんはハウスの中にいた。忘れてないでしょ?と笑うみちるさんに、僕も笑う。
「ハウスの中にいるの、珍しいね」
最後にここに来ていた頃は、ほとんどよし子さんの家に入り浸っていた気がするけど。
「ちょっとみかんの匂いがするようになってきたからね、今日はここで芳香浴なの」
「ほうこうよく?……えっと、みかんの匂い、するかな」
「わたしの鼻は敏感なのだよ」
えへん。とない胸を張るような仕草に笑ってしまう。
「あ、そうだ。今日はみちるさんにお土産があるんだ」
鞄を探って箱を取り出す。ぴょんと跳ねたみちるさんが、僕の手元を覗き込んだ。
「椿」
「うん。お正月に初売りで行ったお店にあって、可愛いなと思って」
「わたしにぴったりだ。首が落ちる花」
「うん。地面に落ちても、きれいな花」
初売りに並んでいたこの花を見たとき、実は少しだけ迷った。ぼとりと首が落ちてしまう花は、見方によってはとても不吉だ。だけどみちるさんにはとても似合うだろうと思ったし、みちるさんならきっと喜んでくれると思ったんだ。にこにこ笑うみちるさんが、心から喜んでくれているようだったので、僕は内心胸を撫でおろす。
「首が落っこちたら死んじゃうんだよね。普通は。だけど私は生きていて、それを、どうしてなのかなー?って、思うことはあるよ。椿の花だって、落っこちたらそのあとは枯れるだけだもんね。枯れない椿があったら、やっぱりそれは不思議な椿なんだよ」
ハウスの奥に二人並んで座る。みちるさんは座るわけじゃないんだけど、ビニールの壁に後頭部を預けるみたいに収まった。
そして、みちるさんの長い長い話が始まった。
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