17 額縁

「しまっておけたらいいのになぁ」

 僕を見つめたまま、みちるさんがそう言う。

「箱の中とか、あんな感じの囲いの中とかに、わたしの思い出っていって、しまっておけたらいいのになぁ」

 ちらりと向けた視線の先には、額縁に入った賞状たちがあった。名前と、これこれこういうことを表彰しますよ。と書いてある賞状。

「あおくんのことも、きっとわたしは忘れちゃうんだよね。それは仕方ないんだけど、お友達のことを忘れちゃうのは、ちょっとだけ残念だな」

「……僕は」

 僕は多分。きっと。

「僕はみちるさんのこと、ずっと覚えてるよ」

 こんな人、人?かどうかはよく分からないけど、みちるさんみたいな存在、他では絶対に出会わないと思うし。

「もしも僕がみちるさんと長い時間会えなくなっても、僕がみちるさんのことを覚えてるから、また会った時には、僕が思い出話をするから。だから大丈夫だよ」

 みちるさんが、目を閉じる。閉じて、開く。

「あおくんが、わたしの思い出をしまっておいてくれるの?」

「そうだよ。僕がちゃんと、みちるさんと僕の思い出を全部覚えておくから。みちるさんと僕が仲良しだったこと、ちゃんと全部教えるから。だからみちるさんは忘れてもいいよ」

 もしもこれから色んなことがあって、ここを離れなくちゃいけなくなったとしても、きっとここに帰ってくると思うから。みちるさんと、これこれこういうことをしましたよ。って、ずっと覚えておくよ。

「にひひ。じゃあ安心だ」

 みちるさんが笑って、僕の膝の上にゴロンと落ちてくる。

「僕、今年は今日がおしまいなんだ。冬休みが終わるくらいまで、多分一ヶ月以上は来なくなるけど」

「さすがにそんなにすぐには忘れないよ」

「そうかなぁ?」

「忘れないよぅ。次あおくんが来たときにも、ちゃんとあおくんって呼ぶからね」

「うん。分かった」 

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