12 湖

 あっちだこっちだと、抱えたみちるさんに言われる通りに進むと、湖が見えてきた。

「あれ、ここに出るんだ」

「そう。近道」

 下のほうの道をぐるりと回って来る場所だったけど、山のほうから来るとこんなに近いんだな。と、みちるさんの自慢げな声を聞きながら思う。

「夏はねぇ、冷たくて気持ちいいんだよ。おいしい魚もいるし」

「おいしい、魚」

「うん。おいしい魚」

 髪の毛をまとわりつかせながらすいすい泳ぐみちるさんが、逃げる魚を追いかけてかぶりつく。図が浮かびかけて首を振る。想像しないことにしよう。

 僕の腕から降りたみちるさんが、ぴょんぴょんと湖に近づいていく。

 打ち寄せる波のすぐ近くまで寄って行って、ぴょんぴょんと後ずさった。

「ん、やっぱりもう冷たすぎるね」

「もう冬だし、それはそうだよ」

「だね。魚は諦めよう」

「魚を食べに来たの!?」

「そうとも言うし、そうとも言わない」

 ふはは。と謎の笑い声を上げながら、みちるさんはしばらく波に近づいて離れてを繰り返す。

 僕は少し離れて、乾いているところに座って、しばらくそれを眺めていた。

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