11 坂道

「あっ、あおくん」

 みちるさんの声が聞こえて、僕は辺りを見回す。よし子さんのお家に寄って、ハウスを覗いて、山の中を少し覗いてみた所だった。

「こっちだよー」

 視界の端で何かが跳ねる。斜面の上にみちるさんがいる。

「ちょっと待っててね」

 見上げると、みちるさんがひとつ跳ねた後傾いた。

「えっ、みちるさん!」

 ごろん、と斜面に倒れこんだみちるさんが、そのままごろごろと斜面を転がり落ちてくる。あわあわしていると、すぐ目の前に転がって来たみちるさんがぽんと跳ねた。

「わっ」

 ぽこんと僕のお腹にみちるさんがぶつかる。勢いの割に衝撃はなかったけどバランスを崩してしまって尻もちをついて、そのまま転がってしまう。

「あおくんこんにちは。今日も来てたんだね」

 僕のお腹の上に乗って、にっこり笑ったみちるさんが、僕が倒れているのに気づいて瞬いた。

「あれ、あおくん転んじゃった?痛かったかな?ごめんね」

「いや、僕は全然痛くなかったけど、あの、みちるさんは、あんな所を転がって大丈夫だったの?」

 体を起こしながら尋ねると、みちるさんは、んー?とほんの少し首を傾ける。顔のあざが、ぐにょんと形を変える。これは痛くないんだよなぁ。

「坂になってるところはね、転がった方が早いんだけど、止まるのに一苦労するんだよね。だから受け止めてくれるものがあるときだけ転がることにしてるんだ」

「痛くないの?怪我したりしない?」

「うん。痛くないよ。怪我することもないかな」

 僕はみちるさんの転がって来た斜面を見上げる。結構でこぼこした部分があると思うんだけど、一体どういう仕組みになっているんだろう。謎だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る