4 温室
「今もさっきのところにいるんですか?」
「あぁ、周りが全然見えないって言うから髪を整えてあげて、そうしたら寒いって言いだして、今はハウスにいるわよ。会ってみる?」
よし子さんのおうちはみかん農家を営んでいて、少しだけハウスみかんも作っている。今くらいから暖め始めるらしいから、ちょうどそこにいるってことなんだろう。
僕はうんうん考える。見てみたいと見たくないの間でぐらぐら揺れて、見たいが勝った。
「会ってみてもいいですか」
「いいわよ」
ハウスの中に入ると、ほわんとあったかい空気に出迎えられる。ずんずん奥に入っていくよし子さんの後に続くと、一本の木の根元に何かいた。
おかっぱくらいの髪の長さの女の人。目はぴったり閉じられていて、ぐぅぐぅいびきをかいているような音が聞こえる。よし子さんが言っていた通り、首だけ。体はどこにも見当たらない。
「あら、みちるさん寝ちゃった?」
「んー?」
よし子さんのおっとりした声に、女の人の首が返事を返してゆっくり目を開く。
「わぁ」
僕は思わずよし子さんの後ろに隠れてしまった。あらあらとよし子さんの声がする。
「おはよーよっちゃん。やっぱりここはあったかいね。うとうとしちゃった」
「おはようみちるさん。快適に過ごせているんなら良かったわ」
にっこり笑っているだろうよし子さんの声に、僕はそっと、顔を覗かせた。
「あれ、誰か連れてきたの?」
「うん。連れてきたの。あおくん」
「あおくん?」
名前を呼ばれてちょっと飛び上がる。ぎくしゃくした動きになっているのを自覚しながらよし子さんの背中から出て、僕は少しだけ首に近づいてしゃがんだ。
「えっと、初めまして。僕は高森蒼斗って言います」
「あおとくん。で、あおくんかぁ。はじめましてー。わたしはみちるだよ」
上目遣いに僕を見たみちるさんが、ぱっと笑う。その顔がちょっと可愛いなと思った。怖くなくなったわけじゃないけど、可愛いなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます