第19話 バイトはじめました
あれから2週間ほどが経過したころ...私はいよいよアルバイトを始めることにした。
一応、親への警戒とか大学の人など...色々なことを含めて大手コンビニチェーン店やカラオケ店は人目に付きやすいので避け、結果始めたのは駅から少し離れた場所にある個人店の【深山商店】という、今にもつぶれそうな雰囲気のたばことかお酒とかお菓子とかを売っている昔ながらの商店で働くことにした。
時給は最低賃金ではあったが、お客さんはあんまり来ないし、店主の深山おじいちゃんはすごく優しいしで正直かなりラッキーなアルバイト先であった。
「いらっしゃいませ~...」と、お客さんが来たら店内の半分にいきわたる程度の声でお出迎えをする。
買い物に来る人の顔ぶれも大体同じであり、年配の方がメイン。
買い物ついでに深山おじいちゃんと話に来る人も多かった。
「あらぁ...こんな若くてかわいい女の子雇ったの?」
「そうなんじゃよ~。ほら、わしももう結構年じゃからなあ」
「なーにを言うのよ!私のほうが年上じゃよ!お姉ちゃんはいくつ?」
「あっ...二十歳です」
「えー!見えないわねぇ...最近の若い子は本当べっぴんさんが多いわよねぇ...」
「そうじゃのう...」
そんなまったりとしたアルバイト時間は家で圭さんといる時間とはまた別の癒しの時間になっていた。
ちなみにシフトは大体週に3回程度で1日4~6時間程度。
たまに深山おじちゃんの話相手になるだけでも時給が発生しているようで、「この時間は時給いらないです」と言っても、「なんもなんも気にすんな!わしなんて、どうせお金あったって使うことないんだから...。この店だって趣味で続けてるだけだからのぉ...もう後何年できるかわからんしな...」と言われ。少しだけ申し訳ない気持ちになりつつも、ご厚意に甘えて受け取るのであった。
そうして、そんな生活にも慣れバイト終わりにいつも通りスーパーに行くと、「あの...」と後ろから声を掛けられる。
振り返るとそこに立っていたのは...大学で同じゼミだった
「...瀬奈ちゃん...」
特段仲が良かったわけでもないが、すっと名前が出たのだった。
「...久しぶり...」と、少しだけぎこちなく笑う彼女。
「...うん」と、少し目をそらす私。
話すこともないし、このまま去ろうかなと思ったが、彼女に腕をつかまれてしまう。
「え?」
「す、少しだけ...時間ある?」
「...うん...少しなら」
なぜか口からそんな言葉が出てしまったのである。
◇
買い物を済ませたあと、近くのカフェに二人で入る。
「...」「...」
そもそもそんなに話す間柄でもない上に、積極的にしゃべるタイプでもない私たちは席に座るとすぐに注文を済ませて、そのまま無言の時間が続くのだった。
...なんで私に話しかけたのだろう...。
そう思ったとき、「...最近、大学来てないよね?」と言われて思わず手が止まってしまう。
「...うん。そうだね...」
「...何してるの?家で...」
「...特に...。友達もいないし...勉強も特に好きじゃないから...行ってないだけだよ。...ゼミのみんなは...元気にしてる?」
「...うん。元気...だよ...」
「...そっか...」
「...」「...」
そうして、またしても無言の時間が流れる。
「...」「...」
仕方ないので今度はこっちから話題を振ってみる。
「...なんで...私に話しかけたの?」
「...」と、バツが悪そうな顔をする彼女...。
「...あのね...この前...大学の前で...その...ある人が居て...」
「...ある人?」
「...うん。玲ちゃんのことを...探している人」
すぐに両親の顔が浮かび、色んなものがこみあげてきて思わず手で口を押える。
「だ、大丈夫...?」
「...うん...。どんな人...だった?」
「...えっと...ね...若い女の人...探偵の助手って...言ってた...」
そんな言葉に思わず動揺する。
あの人たちが...私のことを本気で探していることに少なからず驚き、そして...恐怖を覚えてしまった。
「...詳しく聞いてもいい?」
「...うん。名刺も渡されたから...その...これ」
そこにはとある探偵事務所の名前が書かれてあった。
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