第14話 お見舞いは週末に

 次の日、出勤すると噂が現実のものとなった。


 あいつは長期入院となることが決定し、そのことが朝礼で発表されたのであった。


 そのせいで...俺の仕事はさらに増え、今までより多忙な日々が確定してしまったのだ。


 まぁ、日頃の行いはクソでも、病気に関してはあいつが悪いわけではないからそこに言及するのはやめようと心に言い聞かせていた。


 そんな時、女性社員の誰かが「土日の休みを使ってみんなでお見舞いに行こう」と、いい始める。


 全くふざけた提案である。

こっちは仕事で忙しいのに土日の休みまであいつに使ってやる義理はない。

適当に言い訳して不参加でいいだろう。


 そう思っていたのだが、「みんなで押しかけるのは迷惑。数人の先輩と関係が深い人が行くという」話で落ち着いてしまった。


 当然、直属の部下である俺が候補に上がるのは必然であり、最終的には部長と俺の2人で見舞いに行くという最悪の結末で終わりを迎えたのだった。


 まさに終末である。


 ...周りから見れば俺とあいつは仲のいい上司と部下の関係だと思われてるし、ここで行かないと言えば俺の評判が落ちるだけ...。


 まぁ、現時点ではあいつが復帰できるほどの病気なのかは知らないし...、今後の自分のためにも仕方ないか。



 ◇その日の夜


「...お見舞いですか?」


「...うん。俺はもちろん行きたくないんだが...まぁ、行けないとは言えない空気だったし...」


「そう...ですか。土日のどっちですか?」


「...ん?一応土曜の予定だけど。なんで?」


「...私も一緒に行っていいですか?」


「...え?...いやいや、部長もいるし...それにその...俺的には玲ちゃんにはあいつと関わってほしくないなとか...思ったり」


「...でも...今俺はこんなに幸せなんだぞ!って...見せつけてやりたい...くらいの仕返しはいいと思うんですけど...」


「...うーん...。俺1人で行くなら全然いいんだけど...。ね?今回はその...」


「分かりました...。す、すみません、ワガママ言っちゃって」


「いやいや、その気持ちだけで嬉しいからさ」


 俺はあいつにどんな顔をして会えばいいのだろう。

いや、決まっている。部長がいる時点で俺は心配している部下を演じるだけか。


 あー嫌だな。嫌いな奴を心配しているふりなんて。

そもそも面会拒否とかにしてくんねーかな?

いや、それも部長とセットが故、無理だよな。


 全部、部長のせいじゃねーか。。


 それから面会のアポを取り、迎えた土曜日。

休みだというのに全く気持ちの良い朝は迎えられず、悶々とした気持ちのまま朝食を食べる。


 すると、部長から電話がかかってくる。

電話?なんだろう。


「もしもし」


『すまん、ちょっと嫁が体調崩してしまってな...。子供の面倒を見ないといけなくなったから悪いが1人で行ってくれないか?』


「...後日にした方が...」


『いやいや、また予定合わせて日が伸びるのもあれだし、他の社員を誘って行ってくれ。すまんが、頼んだぞ』


 そのまま電話は切れてしまうのだった。

確か部長のところの子供はまだ相当小さかったはず。

目を離すことは出来ないってことか。


 他の社員つったって連絡先とか知らないし、誰がこんないきなりのお見舞いに行きたいだろう。


「...参ったな」


「どうしたんですか?」と、玲ちゃんが話しかけてくる。


「...あー、いや、部長がいけなくなったらしくて...。どうする?一緒に行く?」と、声をかけると嬉しそうに頷く玲ちゃん。


「...おっけ。じゃあ、行くか」


 こうして俺は大好きな彼女を連れ、憎き相手に会いに行くことにしたのだった。

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