第12話 情けない自分

 ◇探偵事務所


「お疲れ様です!王子!」


「...その呼び方はやめてくれ...助手よ」


「それで?なんの依頼だったんですか?」


「...よくある話だ。家でした一人娘を探してほしいっていうな」


「ん?へぇ。いいじゃないですかー。これぞ探偵って感じで」


「...まぁ、そうなんだが」


「何かあったんですか?」


「いや、何でもない」


「...変なの。んで?今回私は何をすればいいですか?」


「あぁ。悪いが娘の居場所とかそういうのを調べてくれ」


「...ちょいまってください。それって私に丸投げってことですか!?」


「俺はちょっと調べることがあるんだよ」


「えー!!!パワハラ!!パワハラだぁ!!」


「...んじゃ、いいよ。どっちも俺がやる」


「待ってください!やりますからぁ!」


「...」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079732952420



 ◇


「ふんふん...」と、鼻歌を歌いながらシチューを作っていると鍵が開けられる音が聞こえる。


 急いで火を止めて玄関までお出迎えに行く。


「あっ、おかえりなさい...あなた...とか言ってみたり」


「...おう。ただいま」


「...何かありました?」


「ん?いや...何でもない。おっ、今日はシチューかな?」


「...はい。結構自信作です」といった私の唇をやや強引に奪う。


「んっ...//」


「...好きだよ、玲ちゃん」


「私も好きですよ...?けど...」


「けど?」


「だから...なんでも一緒に背負いたいです」


 それは俺の心を見抜いての言葉だったのだろう。


「...うん。ご飯を食べ終わったら話すね。先にシャワー浴びてくる」


「...はい」


 シャワーを浴び、一緒にご飯を食べて...ソファに座りながらテレビを見る。


 すると、俺の肩に頭を乗せてくる玲ちゃん。


「えへへ...」


「...」と、無言で頭をなでるとまるで犬のようなポーズをしてもっと撫でてと要求してくる。


「よしよーし...」


「わ~ん...なんつって...」


 そうして、いつも通りイチャイチャしながら過ごして...。

少し落ち着いたタイミングで切り出す...。


「...あのね、今日ある噂を聞いちゃって...」


「噂...?」


「うん。ほら...ツイート覚えているでしょ?俺の彼女が...上司に寝取られたって...」


「...はい。...言ってましたね」


「その上司がもしかしたら重い病気かもって聞いてさ...」


「...そう...なんですね」


「俺、普段からその人から嫌われててさ、別に何かしたってわけじゃないけど...すげー目の敵にされててずっと嫌いだったのに...さらにあんなことされちゃって...。最近も...みんなに聞こえない声で...その...色々言われちゃってさ...。けど、その話を聞いたときに内心すげー喜んじゃって...。なんか...自分がすげー情けなくて...ね。結局自分も...上司側の人間なんじゃないかって...。嫌いな人だったとしても...死ぬのは違うとか思えなくて...そのまま死んでしまえ...とか思ったり...」


「...そう...ですか」


「...うん。なんかこう...ね。いや...実際、超ムカついていたし...人によっては別にそう思ってもいいっていう人もいるとは思うんだけど...。なんて表現していいかわからないんだけどさ...」


「...なんとなくわかりますよ...。私の...例えがあっているかわからないですけど...。本当は...圭さんは...元カノの人と別れて...新しい人...た、例えば私とかとの...幸せな自分の姿を上司の人に見せつけて...悔しがる姿を見てスッキリというか...その...ざまぁみろって...そういう気持ちになるはずだったのに...上司の方が病気になったときに同じような感情が襲ってきたというか...」


「そう。そういう感じ...。なんかそれが...ね」


「...けど、私も...両親がもし重病になったって聞いたら多分すごく喜んじゃうと思います」


「それは...レベルが違うよ。そりゃ、玲ちゃんはそう思うだけのことをされているけどさ...。俺のはそこまでのことでもないような気がして...なんか...」


「そんなことないですよ。きっと...圭さんの中でそれだけ彼女さんのことが大きかったんだと思います...。ちょっと...やきもちですけど」と、頬を膨らませる。


「...そうなのかもね。初めての彼女...だったし」


「...」と、ぷいと顔を背けてしまう玲ちゃん。


「でも、好き度で言ったら断然玲ちゃんだよ?前の彼女にはこういうイチャイチャはできなかったし...」


「...ふーん?...そうなんですねぇ」


「...うん。ありがとう」


「...いえいえ//」


 こんな風に本音で話すこともできなかった。

どこか隠してきれいな自分を見せようと無理をしていた。

けど、玲ちゃんにはありのままの情けない自分を見せることができる。


 それは気が楽というか...すごく...安心できる。


「...好きだよ」


「...私もです」


 そうして、またキスをした。

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