第11話 嫌いな奴の不幸はマヌカハニーの味

「...娘さんを探してほしい...と?」


 我が探偵事務所を訪れたのはTHEお父さんといった感じの真面目そうな人と、心配そうにしているお母さん。


「はい。お願いできますか?」


「とりあえず話を伺いましょうか?」と、私はコーヒーを出した。



 ◇


「...なるほど。大学2年生...の女の子ですか。大体1週間ほど前から...と...それははぞかしご不安なことでしょう」


「...はい」


「警察にはすでに届け出は出されていますか?」


「はい、もちろん出しています。しかし、まだ日が浅いですし、20歳なら成人しているからとあんまり真剣に操作をしていただけなくて...」


「そうですか。それで...。まぁ、うちは行方不明者を探すことを得意としている探偵事務所ですから、ご安心いただければと。しかし、場合にはよっては娘さんがどのような姿で見つかるかはわかりません。そういったことも覚悟だけはしておいてください」と、告げると涙を流し始める奥さん。


 そんな奥さんをそっと抱きしめるご主人...。

いや...別に違和感はない。自然なことだ...。しかし、この二人からは何かが匂う...。


 いいねぇ...探偵冥利に尽きるね。この事件...誰にも譲ってあげるものか。


「では、料金も含めてお話を進めてまいりましょうか」



 ◇


「...ツンツン」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079732874798


「ん?どうしたの?」


「いえ...なんかツンツンしたくなって...えへへ」


「...じゃあ俺もツンツンしようかな」


「いいですよ?」と、言いながら頬を差し出してくるので、ツンツンすると「あはは...ツンツンされちゃった」とかわいく笑う。


 すると、お互いに見つめ合って...キスをする。

そんなバカップルルーティンを終えていつも通り出社をする。


 そして...またしてもあいつが来ていないことに気づく。


 昨日に引き続きの休み...助かるぜ。

あいつがいないだけで仕事が捗るはかどる...。


 そうして、コーヒーでカフェインをぶち込んで仕事に集中するといつもより早く仕事を終えることができた。


『帰るね』と送ると『今日は早いですね!待ってます!』と返ってくる。


 誰かが待っているというのはこんなにもいいものかと思いながら急いで帰宅の準備をしているととある話が耳に入ってくる。


「...なんか澤田さん...結構やばいかもって」「やばいかもって何がですか?」

「いや、なんか病気になったかもしれないって」「え?マジですか?」


 そんな話に思わず手が止まってしまう。


 不謹慎なんだろうがそれでも俺は喜んでしまった...。

俺は聖人ではないのだ。


 これで...俺はようやく解放されるのか。


 他人の不幸が蜜の味なら、嫌いな人の不幸はムヌカハニーの味なのだろうか。


 きっと、俺の元彼女を寝取ったときのあいつもこんな気分だったのだろう。


 そうして、一つ深呼吸をして俺は会社を出たのだった。



 ◇病院


「直ちに入院が必要な状況です」


「...」


「ご家族の方にも連絡します。失礼ですがご結婚はされておりますか?」


「...いえ。しておりません」


「そうですか。ご両親は?」


「どちらももういません」


「そうですか...」


 俺はそのまま入院することとなった。


 あいつの彼女を寝取った後、あのことも...少しぎくしゃくしてしまっていた。

俺は...本当にあの子のこと好きだったのに...。


 俺は最低な人間だ。そんなことは誰に言われなくてもわかっている。

だからこれは報いだ...。きっとそうなのだと...思いたい。

そう、この世界には神はいるんだとそう信じたいのだ。

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