第9話 親からの連絡

「ただいま~」


 だいぶ遅くなってしまった...。


 ネクタイを緩めながらリビングに行くと、机に突っ伏して眠っている玲ちゃんの姿があった。


 あの言葉通り、律儀に俺の帰りを待っていてくれるなんて...。

本当...可愛いな。


「ただいま」と、いいながら頬を撫でると、半目で少しよだれを垂らしながら「...おかえりなさい...」という。


 すごくかわいくて思わずそのままキスをしてしまう。


「んっ!?//」と、体をビクンとさせながら俺の肩を握りしめる玲ちゃん。


「...待っててくれてありがとうね」


「...でも、寝ちゃってましたよ...」


「そうだね。けど、ぎりぎりまで耐えててくれたのはわかるよ。これからは先に寝てていいからね?」


「...それはいやです。おやすみ言いたいですし...。あっ、今、ご飯温めますね?先にシャワー浴びてきてください...」


「...おう」


 そうして、シャワーを浴び、玲ちゃんが作ってくれた肉じゃがを食べる。


 その後は歯を磨いてすぐにベッドに入る。

すると、すぐに玲ちゃんも入ってきて、「頭...なでなでされたいです」と言いながら俺の胸に顔を押し付ける。


 そうして、頭を撫でているといつの間にか眠りについてしまうのだった。



 ◇


 パシャ...。という音で目を覚ます。


 それは携帯のシャッター音だった。


「...んぁ...?」


「あっ、ご、ごめんなさい...寝顔があまりにもかわいいので...写真撮っちゃいました」と笑う。


「...おっさんの寝顔なんてかわいくないだろ...?」


「かわいいですよ!ほら...ふふふ」と、楽しそうに笑う玲ちゃん。

ったく、かわいいのは玲ちゃんのほうだっての。


 ずっと...こんな幸せな時間が続けばいいななんて...ちょっと不穏なフラグを立ててみる。


 そんなことを考えていると、「私...大学辞めて働きます」と覚悟を決めた顔でそういった。


「...そっか。うん。玲ちゃんが決めたことなら...俺は何も言わないよ」


「...ありがとうございます。今日にでも...大学に退学届け出してきます」


「...わかったよ。けど、退学届けって...親のサインとかいらないのかな?」


「それは...私のほうで書こうかなと。調べたところ特に確認の連絡がいくわけではないので...」


「そっか」


 そんな会話をしていると、ピロンと音が鳴る。


 すると、顔を真っ青にして固まってしまう。


「どうしたの?」


「...いえ...親から連絡が来ていて...早く帰って来いって...」と、携帯を見せる。


 DVするような親だ。

それに早くここから出て行けとか...そういうことを普段から言われていたことをちらっと聞いていた。


 だから、家を出て行っても探したりはしないと...そう思い込んでいた。


 ちなみに当然家族の連絡はどっちも拒否していたが、どうやら別の携帯からSMSを使って送ってきたようだった。


「...どうしましょう。もし大学に行って...その...親に連絡が行って...」


 確かに、もし大学にすでに連絡を行っている場合、退学届けを出しに行こうもんなら...。


「...確かに。下手に大学に行くのは危険かも」


「...てか、今更戻って来いって何...。どうせ...私のこと...殴ったり...蹴ったりするだけのために...戻って来いってこと...?」と、つぶやきながら呼吸が荒くなっていく玲ちゃん。


「大丈夫?」と、俺が触ろうとした瞬間、パンとその手を払われる。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079668502859


「あっ...ち、違うんです...違うんです...嫌いにッ...嫌いに...なら...ないで...くだ..さい」と、その目には涙が溜まっていく。


「...大丈夫。大丈夫だよ」と、そっと玲ちゃんの手を握る。


「...ごめんなさい...」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る