第8話 優しい日常

「美味しいですか?」


「...うん。すごく美味しいよ」


「あはっ...よかったです。圭さんにはやっぱり笑顔がお似合いですよ」


「うん。ありがとう...」


 歯を磨いてテレビを見て、そのままいつものように一緒にベッドに入って電気を消す。


 なんだかいっつも俺ばっかり慰めてもらってるよな。

よし、今日くらいは俺が玲ちゃんのことを...。


 ちょっと強引にキスされるの好きって言ってたよな...。

よ、よし...や、やってみる...か。


 真っ暗な部屋の中、玲ちゃんの顔を手探りで触る。


「...どうしました?」


 そのままぐっと近づいて、強引にキスをする。


 一瞬、体をビクンとさせるも「ちゅっ」として、俺の体を抱きしめて受け入れてくれる。


「...すごく...興奮しました...//」


「そ、そう?それなら良かった...。俺は結構...恥ずかしかった..,//」


「ふふふ、かわいいですね、圭さん。あの、もう一回しましょ?」


 すると、今度は玲ちゃんのほうから近づいてきてキスをした。


 あーやばい。すげー幸せ。なんか...ずっとこうしてたいな。


「...玲ちゃん。好き...だよ」


「はい。私も圭さんが大好きです」


 そのまま抱き合って眠るのだった。

 


 ◇


 ジリリリリリというアラームで目を覚ます。


 鼻の中に優しいお味噌汁の香りが入ってくる。


「...ふぁ...」


 そのまま、扉を開けるとエプロン姿をした玲ちゃんが立っていた。


「...あっ、おはようございます。今ご飯作ってますので...お待ちくださいね?ついでにお昼のお弁当も作りましたので。持っていってください」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079602170976


「...ありがとう」と、料理をしている玲ちゃんを後ろから抱きしめる。


「...えへへ...//奥さんのフリしてみました...//朝から...幸せです」と、楽しそうに笑う。


 朝から甘ったるいほどのイチャイチャをかまして、仕事に向かうのだった。


「行ってきます」


「いってらっしゃい」



 ◇


 会社に到着し、いつも通り朝の準備をしていると「...あっれぇー?お弁当なんか持ってきてんのー?自分で作ったの?」と、朝からアイツが絡んでくる。


「...」


「えー?無視?上司に無視とかダメでしょ?」


「...彼女に作ってもらいました」


「...は?...っぷwwあははっww何?wwそんな朝のために早起きして自分で作った感じ?wwいやー、面白いなぁ。本庄くんは」


「澤田先輩、どうしたんですか?」


「あー、いや、本庄くんが面白くてさ」


「へー?そうなんですか?何の話してたんですか?」


「いや、自分で作ったお弁当を空想の彼女に作ってきたっていう体で楽しんでるらしいんだよw変わってるだろう?」


「え?あははは、確かに変わってますね」と、やや引き攣った笑顔でそう言った。


 訂正するつもりはない。

こいつの口のうまさと立ち回りのうまさは誰よりも知っているつもりだ。

どうやら、こいつはどうにも俺のことが気に食わないらしい。


 まぁ、別にそんなことはどうでもいい。


 俺も合わせて適当に愛想笑いをする。


 そうして、女子社員がさっていくと、「この会社にお前の味方なんていねーぞ」というのだった。


 もちろん俺はこいつに何もしていない。

多分、優奈っていう俺に相応しくない彼女がいたことにムカついていたのだろう。


 いや、多分別に理由なんてなんでもいいのだ。


 世の中にはいじめられる方にも原因があるなんていうが、それはいじめる側の都合にすぎない。


 いじめる側にとって理由などどうでもいいのだ。根本的にはこいつが気に入らない。だから、こいつをいじめる理由を探していじめる。それだけのことなのだ。


 そうして、適当に流しながら仕事をしているとそれが気に食わなかったのか、無茶な仕事量を押し付けてくる。


 そのくせ自分は定時に帰宅するのだった。


 まぁ、もうどうでもいいが。


『ごめんね、玲ちゃん。帰り遅くなる』


『お仕事ですか?それとも飲み会とかですか?』


『仕事だよ』


『では、ご飯作って待ってますね(^ ^)』


『ありがとうね』


『あの、迷惑じゃなきゃ駅まで迎えに行ってもいいですか?ちょっとでも早く圭さんに会いたいので...』


『ごめん。家で待っててほしい。女の子が1人で夜道を歩くのは危ないから。できるだけ早く仕事終わらせるから』


『分かりました!優しい圭さんも大好きです!』


 そんなやり取りに思わずニヤッとしてしまう。


 さて、やるか...と、急いで仕事を終わらせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る