第7話 一緒に入浴
そのまま目を逸らして、彼女の横を通り過ぎる。
何か俺に声をかけようとしているように見えたが、そんなのはもう俺には関係ないのだ。
その日は雨だった。
もちろん、傘など持っていない。
コンビニで買おうかと思ったが、お金がもったいないし、もうどうでもいいやと投げやりになりながら、走るのだった。
全身が濡れてしまう中、それでも俺は走り続けた。
走って走って、走り続けて...べちゃべちゃなまま家に到着するのだった。
「おかえりなさ...け、圭さん...」と、心配しながら慌ててタオルを持ってきてくれる玲ちゃん。
そんな優しさがただ暖かく感じた。
「...ありがとう」
「あっ、いえいえ...。と、とりあえず、しゃ、シャワーですよね...。あっ、湯船にも入れるようにお湯はりますね」
「...うん」
そのままカバンを置いて、スーツなどを全部洗濯機に突っ込んで、シャワーを浴びる。
「...あー、何してんだろ、俺」
そんな言葉が漏れる。
これからだってこういうことはあるだろう。
あのクソ野郎に煽られたり、クソ野郎を迎えにきた元カノに会うことだって...あるはずだ。
こんなことで狼狽えていたら...仕事なんて続けられない。
仕事を続けられなくなったら、玲ちゃんにも見捨てられるのかな。
「...はっ、バカみたいだな。本当」
俺みたいな人間...はずっと1人の方がいいんだ。
誰にも迷惑をかけないように生きていくのが、俺にできる最大の貢献。
誰に対しての?なんて分かりきっている。
俺自身に対してだ。
「...」と、そのままお風呂に浸かっていると「お湯加減いかがですか?」と、声をかけられる。
「...うん。丁度いいよ」
「...では」と、ゆっくりと扉が開く。
そこにはタオル1枚の玲ちゃんが立っていた。
「...ちょっ!?//」と、思わず目線を逸らす。
「...お邪魔してもいいですか?というかもう...お邪魔しちゃってますが」と、何事もないようにシャワーを浴び始める。
え?え?え?なんでいきなり?
「あ、あの...玲ちゃん?」
「はい...何ですか?」
「いや、な、何って...その...目のやり場に困るというか...」
「...それはえっちな意味でですか?」
「そりゃ、そうじゃん!他にある!?」と、ひとまず彼女に背を向ける俺
「...体洗うので少しだけそっち向いていてください」
こうして女の子とお風呂に入るなんて初めてなのだが!?
彼女に冗談混じりで誘ったら、普通に断られたし...やばい。心臓がやばい。
そのまま数分すると「もう大丈夫です」と言いながら、湯船に入ってくる。
そのまま何もない壁をじーっと見ていたのだが、「こっち向いてください」と言われてしまう。
仕方なく彼女をみると、タオル一枚で少し恥ずかしそうにしている。
「...いや...直視ができないのだが」
「...こんな傷だらけの体を見て...そういう気持ちになってくれるっていうのは...私的には結構嬉しいんですよ」
「...き、傷とかは全然気にならないっていうか、いや気にしてないわけじゃないよ?痛そうだなとか思うけど...」
「分かってます。言いたいことは...。だから、嬉しいんです」
「...こっちこそありがとう...。その...気を遣ってくれたんだよね...」
「...そうですね。何かあったというのは...何となくわかっていたので。けど、それを無理に聞いたりとか、そういうのは違うかなって思ったので...。なので、私なりに色々考えて...。喜んでくれたなら嬉しいです...」
そう言いながら彼女は立ち上がると少し俺に近づいて、そのままくるっと背を向けて座る。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079533033224
つまり俺の目の前に、抱きしめてくれと言わんばかりに体を密着させるのだった。
「...いつか、この傷が癒えて綺麗な体になったら、またこうしてお風呂に入りたいです。今度は...タオルなしで」
「...ごめんね」
「なんで謝るんですか?私に嫌なことでもしたんですか?」
「...ううん。なんか...自分が情けなくて...」
「無理しなくていいんですよ...。泣きたいなら私の背中を使ってください」
そう言われて俺は彼女の体を抱きしめる。
そして、彼女の小さな背中に頭をつけて子供のように泣き始める。
本当、情けない大人だ。
すると、玲ちゃんは無言で優しく俺の頭をポンポンとしてくれるのだった。
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