第6話 お兄ちゃんって呼んだほうがいいですか?

「...お兄ちゃんって呼んだほうがいいですか?」


「いや、大丈夫...大丈夫だから...。忘れて?お願い...」


「わ、忘れられないです!彼女として...そういうのは...ちゃんと抑えないとですし...」


 本当に嫌になってきた...。


「そういう玲ちゃんはないの?フェチとか...そういうの」


「私...ですか?そういうのはあまりないかもです...あっ、でも...年上の方は好きです。ちょっと...強引にキスされたりとかは...好きかもです」と、見上げながらそんなことを言ってくる。


 それは今ここで強引にキスをしろ...ということだろうか?

しかし、俺にはそんな勇気はないのだ。


 そんなやり取りを終えて楽しい週末を終えた...。

そう、この先に待っているのは地獄...。

だって...それはつまり...あの彼女を寝取った上司との顔合わせということだからだ...。


 はぁ、気が重い...。

マジで顔を合わせたくない...。あれを思い出しそうで...。


「はぁ...行くか...」


「行ってらっしゃい!...お、お兄ちゃん...!」と、顔を真っ赤にしながらそんなことをいう玲ちゃん...。律義というか...純粋というか...。


「...うん、行ってくるね。玲ちゃんは大学行くの?」


「はい。大学はちゃんと...行くつもりです。けど...場合によっては退学して働くのもありかな...とかは思ってます。お兄ちゃん...が行ってる間に色々と考えておきます...」


「...そっか。わかったよ」


 そうして、俺は会社に向かった。



 ◇


 会社に到着すると、上司にデスクにはカバンがないことに安堵する...。

こんなことに一喜一憂していたら本当に体がもたないぞ。


 そんな風に思っていると、後ろからあいつの声が聞こえてくる。


「おはよー、みんな」


「おはようございます!澤田先輩!」


 俺は振り向くこともなく、気づかないふりをする。


 すると、がっと肩を掴まれ「おはよ、本庄くん。気づかないふりなんてやめてよー。さみしいなぁ...。朝からしてきたんだ」と、そんなことを言ってくる。


 こいつは...どこまで...。


 握ったこぶしを見られ鼻で笑われる。


 もう...ここに居たくなかった...。もしくは何かであいつをぶん殴ってやりたかった。


 俺は別にあいつに何もしていない。なのにあいつは...。


 そうして、睨むように見つめると「怖いなぁ...」とまた鼻で笑うのだった。


 その日、一日は本当に地獄だった。

地獄の中の地獄...。


 しかし地獄はそこでは終わらなかった。


 定時で仕事を終わらせ、すぐに会社を出ると...そこには元カノが立っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る