第4話 かける言葉

「...え?」という言葉しか出なかった。


 いやいや...大人ならここで気の利いた優しい言葉をかけてやれよ!...と俺もそう思います。けど、言葉が出ないんです。


 だって...なんて声かければいいんだよ。

つらかったねと同情してあげるのが正解なのか?

それとも...無言で抱きしめてやるのが正解なのか?

はたまた、警察に連絡してあげるのが正解なのか?


 けど、何か言わなきゃと思って出た言葉は...「痛そう...」とかいうわけのわからない言葉だった。


「...はい」


 やばい!この空気きつすぎる!俺だってすげーつらい目にあってんのに、それを遥かに上回るやつ出されたらもう言葉でないって!!


「えっと...その...両親から...DVを...受けているの?」


「...はい」


「...そっか...。そうなんだ...。警察とか...先生とか...児童相談所...とか」


「...全部だめでした」


「...そっか」


「だから...圭さんが...私のこと...助けられないなら...私...このまま...死のうって思ってて...」と、涙を流しながらそんなことをいう。


 そして、カバンから徐にロープを取り出す。

そのロープは新品ではないことはすぐに分かった...。

少しだけほつれているところがあったり...赤くなっているところがある。


 それはきっとつまり...そういうことだろう。

何度も...何度も...迷って、やってみて、怖くなったり...。


 このロープというのはきっと、彼女にとっての最後の希望そのものなのだ。


 それに比べて俺がされたことなんて...いや、しんどいよ。当事者としてはしんどいけど...彼女の実情に比べれば屁でもないことだった。


 こうして何度も...何度も助けを求めてそのたびに失敗してきた彼女。

じゃあ...もう俺が救ってあげなきゃ本当に...。


 だけど、俺に何ができるよ。ただの社会人の俺に...。


「...俺の...ために生きてよ」


「...」


「俺が...隣にいるから...。これからずっと...」


「...本当ですか?」


「...うん」


「...ありがとうございます」と、彼女は服を着始めるのだった。


 その後は特に何もなかった。

二人でただテレビを見て、たまに笑って...。

そうしていると、不意に彼女に手を握られて...。

いつの間にかキスをしていた。

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