第36話 恋する乙女




ボクのアイスプリズンは対象を凍結させる魔法なんだけど

デカゴブを砕いたときに砕けなかったモノが2つ。

そう、棍棒と盾だ。


すぐに追い付くからと皆を先に行かせて広場に戻ったボクはそれを回収にきたってわけだ。


たかがゴブリンがこんな良さげな武具を持っているのもおかしいと思ったが実際に装備していたんだから考えても答えは出ないよね。


「ありがたく貰っていくよ」


岩壁の亀裂からでたボクは二度とここに何かが住み着かないように壊しておくことにする。


「ボム」


圧縮された炎の塊が亀裂の中へ飛んで行き広場辺りで爆発をおこす。


ドッッッゴォォォォォン!!!


爆発と同時に地響きを鳴らしながら岩壁は形を変え始める。

粉塵を天高く撒き上げながら魔物の森の小さな山が1つ消えてしまった。


あちゃー…魔力込めすぎたかぁ。

もっと魔力制御を練習しなきゃダメだなぁ。


さて、皆においつかなきゃ。

先に別荘に戻ってもいいんだけどマイケルが心配だしさ。


マイケル達に追いつき別荘に戻ったボクたちは攫われた人達に今夜は泊まってゆっくり休んで明朝街に戻るように伝える。


捕まってたメンバーはブラックヘアー・モウの罠にかかって捕まったパーティーの他にも薬草採集やゴブリン討伐などの依頼を受けた人や、普通に狩猟にきていた猟師など。


助け出せたのは男性7人女性5人の計12人。

どういう状況で何人亡くなったのかなど、今回の事をギルドに報告しなくてはならないらしいが今それをさせるのは酷というものだ。


急な事だったのでメイド3人とティナさんが走り回って夜の支度をしている中、じっとしているより気が紛れると女性陣が手伝いを申し出て9人で用意をしている。


そんな風景を見ているとやはり気になるのは獣人種の女の子。

猫っぽいのが2人いるんだよねぇ。


男性陣の話によると獣人の里から出てきて冒険者登録をしたところ職員に勧められこのパーティーに加入したとか。

戦闘はそれなりに出来るからということで森に入ったまでは良かったんだが

ブラックヘアー・モウに目がくらんでしまい初依頼でゴブリンに捕まってしまうというなんとも悲劇的な話だ。


正直男性陣は助かって良かったねと言えるんだけど女性陣はそうも行かない。


ゴブリンに攫われた女


端的に言えばもう普通の恋愛や結婚は出来ないだろう。

たとえ真実は違っていても世間ではゴブリンに攫われた女というレッテルを貼られてしまうのだ。


パーティーの獣人2人、薬草採集2人、狩猟に付いてきていた猟師の娘が1人。


どうしようかなぁ。



夕方


メイドのマキナが別荘の中から皆を連れ出してくる。


「皆さん!今夜はこのボク、レオン=メイザルグ主催の晩餐への参加を歓迎します!

美味しいモノを食べて心身共に癒されてもらえれば嬉しく思う!

さぁ!焼いていくよー!!」


そう、今夜は外でバーベキューだ。

あっちの世界から持ち込んだ食材を楽しむために用意をしてもらってたんだけど予想外の客人が増えたのであっちの食材は足りなかったら出すことにする。


それよりも今回は例のモウの肉がある!

戻った時に血抜きしてもらって捌いてもらったのだ。


この霜降り肉…やばい、見てるだけでよだれがっ!


帰りに狩ったダチョウみたいなサイズの鳥も食用として高級だと聞いたのでそれも下拵えしてある。


「主殿ぉ、腹減ったぞぉ」

「腹が…減っ…た」


なんかSONとイノガシラがいるようだが気にしてはいけない。

調理担当に焼き方を指示しながら例のソルトをふりかける。


うっほー!この匂い!


匂いを嗅いで客人達もザワザワしだしゴクリと喉をならしている。


「あのぉ、つかぬ事を伺いますが…その肉ってもしかして…」

「これ?ブラックヘアー・モウだよ?」


ウォォォォォォ!!!!


ボクが名前を出したとたんに今までしょんぼりしていた客人達がスタンディングオベーションだ。


「まさか生きてる間にブラックヘアー・モウが食べれるなんて…」

「ダメだ!もうよだれが…」

「生きてて良かった…(涙」


などなど…エサを待ちきれない雛鳥のようにピヨピヨとさえずっている。


ミディアムレアに焼きあがった肉を一口大に切り分けて小皿に取り分けていくと待ちきれない参加者が綺麗に一列に並びだした。


「まずはマイケル、食べてみて」


血をいっぱい流しちゃったからスタミナつけてもらわないとね。


「はい、ぁむ。。。。

こ、これはーー!!!

口に入れた途端に広がる芳醇な香り!これだけの霜降りなのに脂っこくなく旨味だけが広がるさっぱりとした脂!それに負けない赤身部分のしっかりとした肉の旨味!さらに噛まずして蕩けていく柔らかさ!

さらにさらに!このハーブの入った塩が肉の旨味を倍増させている!

これがモウ!これこそがザ・肉!!

うまい!うまいですぞ!!

モウと塩のハーモニー!

もしやここが天国?

これは…

天上のオーケストラやー!!!」


おいジジイ、最後のはやめとけ。

あんたと兄様だけはキャラが崩れないと信じていたのに。

もうこのジジイはダメかもしれない…


「あ、主殿!我も食べたいな?」


指を唇にあてコテンと小首を傾げるティナさん。

うん、可愛い。


「はい、あーん」

「は、はぅあ!?あ、あーん…

こ、これは!!!なんという」

「・・・・はい、ストップ。

めておくんだ。

そっちで指を咥えて恋する乙女のようにキラキラした目でこっちを見ているお年寄りみたいになりたくなければ感想は心の中にしまっておくんだ。

あれは誰も幸せにならない。誰も得しないんだ。もうアレはダメだ。」


客人達にも肉を振る舞うと例に漏れず恋する乙女が増産される事になったので後は調理担当とメイドに任せる事にした。


女子はいいんだ、年齢問わずみんな可愛いしさ。

でもヤロウは無理なんだよ。


だけどみんな嫌なことを一時的にとはいえ忘れられているようで良かった。



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