第33話 センス




「じゃ、行こっか」

「はい」

「ワクワクするな!します!」


翌朝、昨日遅れてきたメイド達に夜の用意をお願いして出発する。


「基本はボクが経験を積む為の訓練だから手出しは無用でお願いね?」

「えぇ!?わ、私も戦いたい!でしゅ。」


無理に敬語にしようとして噛む…

なんてあぽの子なんだろう。

だが可愛いのであえて指摘したりはしない。

もう一度言おう、可愛いので。


「じゃあ休憩するときに周りの魔物をお願いしようかな。」

「主殿ぉぉぉ!!しゅき♪」

「・・・・かしこまりました。」


このあぽの子は復讐の事とか忘れてしまっているんではなかろうか?

それとも記憶できないほど脳みそミジンコなのだろうか…

まぁ、可愛いからいいや。


よく考えてみるとこちらの世界ではガチの戦闘って初めてだよね。

存在する魔物もどんなのが出てくるか知らないし。



魔物の森に入って数十分歩いているが魔物は出てこない。


「魔物、出てこないね」

「まだ森の端ですからな」

「どんな魔物が出てくるの?」

「人型もいれば獣型もおります。

浅い場所ならスライム・ゴブリン・オーク・コボルト、イノシシ型・ウサギ型・クマ型・オオカミ型など、多種多様なモノがおります。それぞれ生息域がありますな。」


うーん、ファンタジーだねぇ。


「オークかぁ…是非実物を拝見したいものだね」

「そのうち出てきますよ。極上の獲物もおりますし」


マイケルはそう言うとティナさんの方にチラッと視線を移す。

日本でよく言われているのはゴブリンやオークは多種族のメスでも犯して孕ませるとされていたがあくまでも空想上の話だったからなー。


「ゴブリンやオークは女好きなの?」

「女好き、と言うより繁殖力が強いので多種族でも妊娠させる事ができるのです。妊娠可能なメスがいれば間違い無く襲ってきますな。捕まってしまえば…終わりです。」

「うわぁ…」

「どうして2人とも可哀想な人を見るような目でこっちを見るんだ?わ、私はあんなヤツらに負けたりしないし!?あ、主殿以外に身体を許す事もないじょ?」


ないじょ?って『ないぞ』と『ないよ』がまざっちゃったのか?

それとも某アニメキャラのモノマネか?

うん、モジモジしてるの可愛い。


「シッ!静かに…」

「「・・・・。」」

「あちらを…」

マイケルが静かに指差した方向に視線を向けると大きめな四足歩行の獣型の何かがいた。

まだ距離があるので目視まではできないようだ。

「なにあれ?」

「牛型の何か…のようですな」

「あれはブラックヘアー・モウだ、です」

「見えるの?」

「フフン、エルフは元々の視力が良いから。森の中ならさらに能力は向上するのだ。さらにさらに!私はハイエルフ(仮)だからな!です!」


(仮)って…自分で言うんだ。


「もしそうだとしたら高級食材ですぞ。」


うん、なんとなくわかった。黒毛だもんね…

どこかのアホ作者が思考を放棄したとしか思えないネーミングだよね。


「そうなんだ」

「一頭狩れれば冒険者なら数ヶ月は遊んで暮らせるだけの報酬が出ます。王宮が常に依頼を出してますからな。」

「それだけ貴重ってことか」

「本来なら奥へ行くのを止めてでも狩る価値のある魔物ですが…レオン様なら」


収納できるから狩れって事か。


「その牛って群れで動かないの?」

「そういえば…おかしいですな」

「見えるのは一頭だけだぞ?です。」

「ちょっと待ってね…」


千里眼!


うわー、思いっきり罠だ。

まわりに人型…これゴブリンか?

なんか子供みたいなのが1,2,3,…

7匹潜んでるな。


「ゴブリンの罠だね」

「わかるのですか?」

「さすが我が主殿♪」

「森の中で火はまずいか…」

「森林火災の心配なら必要ないですぞ。」

「魔物の森では火事はおきない。

火がついても森の守護者が雨を降らせてすぐに消火されるからな、です。」


おぉ、ティナさんが知識をひけらかしてきた!?

あぽの子なのに。


「言い伝えというか噂程度の話ですがガルム山に住まう守護者が森を守っているそうです。」


へぇ、守護者ねぇ。


「じゃ、遠慮なく…と言いたいとこだけど念の為火は止めとくよ。雨が降って歩きにくくなるのは嫌だし。」


静かにやるなら…水か風か?

風だ!


「やるよ」


翳した左手から上空に魔力が集積されていき見えない風の塊を形成する。


「ウィンドアロー」


風の塊から風の矢が8本、ゴブリンとモウの頭めがけて射出された。


「命中だ。敵影は…無し。行くよ」

「なんと…」

「主殿!今の魔法は?」

「後でね。今は先に牛を。」


モウのいた場所まで行くと額に風穴の空いた体長4メートルほどのでっかい牛が倒れていた。


「血抜きは…後でいいや、収納!」

「わわ!?消えた!」

「ゴブリンの死体はどうしよう?」

「魔石を抜いて放置でよろしいかと。ゴブリンは素材として使えませんから。後は森が消化するか他の魔物が食べてくれますよ。」


ゴブリンの倒れている場所を回り魔石だけ回収する。


「やはり…ですな」

「こいつだけ少しでかいね」

「ゴブリンリーダーです。他の雑魚よりも若干強く知能も高めなのです。」

「罠を考えて仕掛けてたのはこいつだったの?」

「それは考えにくいですね、ゴブリンリーダーにこの罠の事を教えて実行させたモノがいる可能性の方が高いですぞ。」

「ゴブリンリーダーよりも頭のいいヤツが命令してる可能性か」


これは厄介な事になってきたなぁ。

こんな森の浅い場所に罠を仕掛けてくるなんて森に入る仕事をしている領民達が危なくなるじゃないか。



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