第28話 奴隷の子



【ティナ】


あぁ、もう歩くことすらでき…な…


意識はある。

でも腐り始めた身体はもう動かすことも出来なくなっていた。


事の始まりはくだらない、本当にくだらない事だった。


私に告白してきた集落の代表の息子をその場でフったら腹いせに私を騙して奴隷商人に売ったのだ。

その売られた先が悪く、闇ギルドの商人だった。

家族を盾に取られ言うことを聞くしかなかった私の首には禍々しいオーラを放つ首輪が装着され逃げ出せば生きながらに身体が腐る呪いが発動すると言われた。

どこかの貴族に売られるらしく道中は性的な乱暴をされる事はなかったけどどうせこのまま売られてしまえば同じ事だ。


気持ち悪い…


馬車にゆられ数日。

どこかの街に到着したところで見張りの隙をついて私は逃げ出した。

誰ともわからない者に身体を許すくらいなら死んだ方がマシだから。


荷馬車から逃げ出したまでは良かったのだけど呪いの効果はすぐに私を腐らせ始める。

予想以上の速度で、急激に。


ハハ、これが私の最後か。

身体中が腐り、異臭を放ち、各所先端から腐り落ちていく。


もう自分の身体がどうなっているのかもわからないし目も腐ってきているので何も見えない…。


長寿のエルフなのに私は短命なのだな。皮肉なものだ。


せめて…せめて私を騙した男とそれを黙って見送った集落のエルフ達、そしてこの忌々しい首輪を嵌めてくれた闇ギルドのクズどもを地獄行きにしてやりたかった…


※ほぼ全員です。


だが、私の命もここまで。

お母様…どうかご無事で…


『生きたい?』


これは?精霊様!?

もしくは神か!?

私の運命を憐れんで?

まさかね…願望が幻聴をんだか。

でも、悔やんでも悔やみきれないこの気持ち!

この憎悪を吐き出す事は止められない!!


『生きたい!あいつらに復讐したい!絶対許さない!!』


精霊様でも神様でも…

悪魔でも何でもいい!

私の望みを叶えて欲しい!!!


『ボクはレオン、

今からキミを治療する男だよ。』


私はティナ。

復讐の為にあなたに魂を売る女よ。


あぁ…暖かい…

体温を失っていた私の身体が温度を取り戻し…

いや待って?

これはどうなっている!?

このような速度で回復する魔法など知らない!有り得ない!!


まさか…本当に精霊様なの?


腐っていた身体が復元された事で身体の機能も回復していた。


声が…


首輪も取ってくれたみたい。

いったいどんな魔法を?


「パーフェクトキュアヒール!」


あぁ、身体が軽くなっていく。

首輪に浸食されていた魂が浄化されていくよう…


あら、私…裸のようね。

まあいいわ、どうせ一度死んだ身なんだから今更よね。


話し込んでるわね…

魔法、魔法陣の研究?

5歳!?

え、ちょっと待って!

5歳の男の子が魔法のことわりを解明したというの!?

有り得ない…


マイケルさんが言う事もわかる。

確かにこのことを発表すれば国は、いえ世界は変わる!

魔物に怯える事もなくなるかもしれない。

でもレオンの言おうとする事の方が現実的ね。

そんな力があるとわかれば悪い人間が独占しようと動き出すのは間違いないもの。

最悪全世界を巻き込んだ戦争が起きるかもしれない。


あら、マイケルさんは執事なのね。

ということは彼は貴族…か。


「ボクの力を分け与えよう」


え?

そんな事ができるわけ…


嘘よね?

もし、もしそんな事が可能なら…

彼は本当に神様!?


※違います


「おぉぉぉぉ!!神よぉ!」


やはり神様!

私は神様に救われて新たな生を授かったのね…

神様、あなたに私の全て委ねます。


※だから違います



・・・・・・・・・・・・



さて、マイケルも説き伏せたし、あとは彼女の身体がちゃんと機能すれば問題は無くなるね。


ボク達は明日にはメイザルグ領に帰るから彼女は王都の屋敷で少し療養させてあげればいいか。


「マイケル、彼女が動けるようになるまでこの屋敷で面倒を見てあげて?メイドを2人ほど残していけば大丈夫でしょ。」

「その必要はないわ…です」

「あ、起きたんだ?回復が上手くいって良かったよ。」

「この度は私のような者の為に有り難う御座いました。」

「放ってはおけなかったからね」

「つきましてはこれからのせいをあなた様に捧げたく」

「え?」

「あなた様のしもべとなり残りの生を全うする所存です。」


いやいやいやいや、何を言ってるんだこの姉ちゃんは?

回復失敗で頭に異常が出たのか?


「いや、あのね?」

「あなた様に救われたこの身、如何様にもお使いください」

「いやだから!復讐はどうしたの!?」

「あなたのもとに控えていればいずれは滅びる悪を目にする事もあるでしょう。どうかお仕えする事をお許しください。神よ。」

「違うからね?」

「この世に混乱をもたらさぬように存在をあかさぬという事ですね?勿論理解致します。神の御心のままに。」

「本当に違うからね?」


神様はイケオジであって5歳の子供じゃないんだよなぁ。

そして全然理解できてないやん。


「どのみち私には戻る場所などありません。ならば!救っていただいたこの命、あなた様のために使いたい!

どうか、どうか!お側に置いてください!」

「レオン様、よろしいですか?」

「どうしたのマイケル?」

「この者をレオン様専属の側使えとして置いてみてはいかがですかな?」


専属ねぇ


「この者はすでに神の御業みわざを知ってしまっております。ならば本人の意志も考慮して側に置いてレオン様のお手伝いをさせれば良いではありませんか。」


魔法自体がイケオジ神の奇跡の力だから神の御業ってのはあながち間違ってはいないけどさ。

僕のは知識と技術であって奇跡ではないんだよ。


「ふむ…ティナさん、メイドの仕事はできる?戦闘は?」

「メイドの仕事はわからん…わかりませんが戦闘力はそれなりに強いとは思う…ます。」

「強い…ねぇ。じゃあ体力が回復したらテストをしてその結果次第って事でいい?」

「望むところだ…です。そこの執事もかなりやりそうだな。どうだ?私は今からでも問題無いぞ…です。」

「フフ、命知らずですな」ニヤリ

「いや、ちゃんと体力が回復してからでいいから」

「うむ、気遣いは有り難いが不思議と力がみなぎってくるようなんだ。集落にいた時よりも身体が軽く感じるくらいだ。魔力の巡りも今までで一番調子がいいぞ…であります。」


無理に敬語を使おうとしているのは可愛いから放置しておこう。

しかし以前より調子がいいときたか。

ヒールとキュアで身体に異変があったってことか?

検証が必要かな。


「じゃあ、とりあえず服を着てもらえないかな」


起き上がったもんだからせっかく掛けた布団がめくれて目のやり場が…


「んぐぅ!こ、こりぇはお見苦しいモノを」

「いえ、結構な眼福でした」

プリンプリンで


「あ、あるじ殿は!…エッチ」


んむ。可愛い。


「採用。」



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