第22話 バカーーー!!



パーティー当日。

侯爵家のパーティーだけど身内のお祝い事のようなものなので格式張ったパーティーにはせずに立食の気楽なパーティーにしたようだ。

会場、といっても侯爵家のホールなんだけど、寄子の貴族や兄様のご学友、王都近郊の貴族たちが集まっていた。


やってくる貴族達はまずは侯爵家に挨拶し、兄様にお祝いの言葉を伝えるとそれぞれ散っていき軽食や酒を手に楽しんでいる。


ボクはというと…




厨房でお肉を焼いてもらっていた。

「味付けは一切無しで!」

「かしこまりました!」

「強火でガッと焼く!」

「かしこまりました!」

「表面が焼けたらそこの葉っぱで包んで熱を中まで通す!」

「かしこまりました!」

「余熱が大事!」

「かしこまりました!!」


結局何がしたいのか?

コンビニで買った魔法塩でこちらの肉を食べてみたいんだ!

もうね、貴族の食事なんて見た目が豪華なだけですべてが濃いんだよ!

金のかかってそうな香辛料やらを無駄遣いされててね…

日本人の舌を持つボクには耐えられないんだ!!


「坊ちゃま!これでいかがでしょうか!?」

「んむ!良い加減です!」


魔法BBQ塩をかけて焼かれた分厚い肉をナイフで切る。

おぉ!肉汁がっ!

どれどれ、一口…


「うぅまぁいぃぞぉぉぉ!!!」

危うく口からビームを出すところだった。

このファングボアの肉は以前から目を付けていたんだ。

牛のような甘いあぶらに豚のようなしっかりとした野性的な味わい。

ちゃんと調理すれば絶対美味しくなると思っていたけどここまでとは!


「料理長、これを食べてみてください。」

ボクはナイフで細かく切ったステーキをフォークで突き刺し料理長にあーんをする。


「こ、これは!!!」

「どうです?良い味でしょう?お金をかければ美味しくなるなんて幻想!料理とは!創意工夫と!」

「工夫と!?」

「愛です!!!」

「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」

「食材に対する愛!食べてくれる人への感謝!そこにすべてが詰まっているんです!!!」

「「「坊ちゃまぁぁぁ!!!」」」

「よし!皆も食べて!」

「「「うぉぉぉぉ!!!」」」


よし、これで目が覚めただろう。


いやー、しかしこの魔法塩、美味いねぇ。

塩とハーブと香辛料が絶妙に混ざり合ってお肉の味を引き立てている。

そういえば向こう前世のサバイバル訓練で食べた蛇と猪と鹿がボクの唯一のBBQ体験だった…


「「レオン、あーん」」

忘れてた…

つい肉の焼き加減に力が入りすぎてしまって姉ーずの存在を忘れてた!

ボクが移動する後を背後霊のようにぴったり付いて来てたんだった。

今は池の鯉のように口をパクパクさせている2人にボクの焼いた肉を両手で同時に食べさせる。

同時じゃないと後々面倒な事になりそうだからね…

アラサーなんだもの!それくらいわかるよ!!


口に入った肉を一噛みした2人は早送り動画のように咀嚼し飲み込んでからまたあーんと口を開けている。


「レオン坊ちゃま、その塩をいただくことは」

「バカーーー!!さっき言った事をもう忘れたの!?創意工夫だよ!人が用意したモノに頼ろうなんてそれでも料理人なの!?」

「も、申し訳ありません!しかし、その塩があまりにも美味しすぎたのです!」

「料理人なら研究して自分で開発しなきゃダメでしょ!!」


ボクは料理人じゃないので。


「は、はいー!!」

「じゃ、ボクは会場に戻るから!頑張るんだよ?」


残りのステーキを姉ーずと食べ切って満足したボクは会場に戻ることにした。



・・・・・・・・・・・・



会場に戻ってくると騒いでるバカがいた。しかもアイツはボクの事をオークだ肉団子だとバカにした挙げ句、その後も悪い噂を流してくれた張本人じゃないか。


「おい!どーしてくれるんだよ!」

「ご、ごめんなさい、でも余所見をしてぶつかってきたのはあなたで…」

「貴様!シャラークセ伯爵家嫡男の俺に口答えする気か!」

「は、伯爵!?」


これまで何事かと見ていたまわりの貴族達も悪名高いシャラークセ伯爵の名前を聞いた途端に我関せずを決め込んでいる。


「そうだ!フフン、だいたいお前のような貧乏くさいヤツがなぜ侯爵様のパーティーにいるんだ!」


「「あいつ!」」

姉ーずはお怒りで殺気立っている。


「ふん、そんな安っぽいブローチなんか着けやがって!」

「あ!返してください!それは母の」

「なんだぁ?逆らうのかぁ?こんなもの!こうしてやる!」

「いや!ダメー!」


バカが女の子のブローチをむしり取って床に投げつけると

「あぁ…」

女の子は泣き崩れてしまった。


「ふーん、お前、貧乏くさいけど見た目はなかなかじゃないか。泣き顔がいいな。将来的に少しは期待できそうだ。よし、お前!俺様の奴隷になれ!そうすれば今回の無礼は許してやる」

「奴隷!?そ、そんなぁ…」


はい、ギルティ。

逆らえない者に隷属を強要するのは法で禁じられている。

パーティーが終わるまで目立たずにひっそりとやり過ごそうと思ってたんだけど兄様の為のパーティーであんな勝手な事をされては黙っていられない。


くそ、人が多くてなかなか近づけないな…

瞬間移動を使えばいいんだけど誰かに見られたら面倒くさい。


ふむぅ。


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