第18話 メイドさん



あの日からオークちゃんは変わった。

悪戯をしなくなったし話す内容が全て優しいのよ。

突然剣と魔法の稽古を始めたり、そうかと思えば屋敷の書庫に籠もったり。

夏の長期休暇で王都から戻られているレイナルド様に触発されたのかしら?


メイドが起こしに行く時間にはすでに庭園の内周を走ってるし…

ぷふふ、見てよあの走ってる姿。

タプンタプンと揺れるお腹に息切れで死にそうな顔!ドタドタと騒がしい走り方!


でも、頑張っているのよね。

きっと今までの自分に嫌気がさして悔い改めようと。

可憐な私に相応しい殿方に生まれ変わろうと努力しているのよね…


※勘違いです。


でも残念!私にはレイナルド様というお慕いする殿方がいるんだもの!

いつかお手つきになるその日まで私も自分磨きを頑張らなきゃ!


※その日はきません。


ある朝、オークちゃんが自己鍛錬するとかで別荘へ行くと言い出した。

まあ、私には関係無いし頑張ってきてねーと見送る側に行こうとするとカエラ先輩に引き止められた。


「何を人事のようにしているの!あなたも行くんでしょ!」

「え?」

「昨日執事長に言われたでしょう!聞いて無かったの!?」


なんで私がご指名されてるの!?


あ、離れたとこから執事長が睨んでるような…うぅ、怖い。


こうして護衛騎士2人とカエラ先輩と私のメイド2人がオークちゃんのお付きとして湖の別荘へ行く事になった。


別荘に到着した私達は昼食の用意をを始める。

やることはいっぱいある。

オークちゃんは到着してすぐに護衛騎士相手に剣の稽古を始めていた。

はぁ、お貴族様は呑気でいいなぁ。


そして数日、オークちゃんはひたすら鍛錬に励んでいて少し痩せてきていた。

本気なのね…


食事も騎士達と一緒にテーブルを囲みなんだか楽しそうに話している。

「レオン様、少し絞れてきましたね!」

「そうかなぁ?自分じゃわからないよ」

「私達が走る速度に追いついてきているじゃありませんか!」

「2人のおかげだね♪」


騎士達はオークちゃんの頑張りを認めているようね。


さらに数日


あのー、オークちゃんがオークじゃなくなってきてるんですけど…


「先輩、オー…レオン様が日に日にお痩せになってきてるんですけど?むしろかなりの美少女?いえ、美少年になってきてるんですけど?」

「そうね、あなたはレオン様がどうしてあのような体格になったのか知らないものね。

レオン様は元々マリアナ様似のすごくお可愛い方だったのよ。」

「またまたぁ、そんなからかわなくても」

「本当よ?3歳の頃に呪いを受けてしまってね、たまたま街にきていたまじない師に受けた治療の副作用であのお体になったのよ。」

「そんな!可哀想です!」

「そうよね?それを知らない他の人達は肉団子だのミニオークだのと見た目をからかってね、心を少し病まれてしまったのよ。」

「………………。」

「今回は何に触発されたのかわからないんだけど、あの直向ひたむきな姿勢こそがあの方の本当の姿なんだと思うわ。」

「そう、かもしれません…」

「あなたもおつかえする主人に不敬な念を抱かないように気をつけなさい。」


先輩は私達若いメイド達が影でオークちゃんの見た目を悪く言ってるのを知っているはず。

だからあえて注意してくれたんだと思う。


「でも本当にこの短期間で凄いですね。」

「あなたは魔法はそこまで得意じゃなかったわよね?」

「そうですね、お水を出したり火種をおこしたりくらいしか出来ないです。」

「魔力の循環の鍛錬をする事で魔力を強化する事ができるんだけどレオン様は一日中その鍛錬をしているんだと思うわ。」

「一日中ですか!?」

「そうでもしないとあの鍛えられた騎士達相手についていけるわけないもの。」

「でもそんなことしてたら魔力がすぐに枯渇したゃうんじゃ…」

「普通の人ならそうかもしれないわね。でもレオン様は…

それに魔力の循環の鍛錬で身体の代謝もあがると執事長が言っていたわ。」


「カエラー、マキナを連れてこっち来てー」

「はい!ただいま!」



ネックレスをいただいた。

付き合ってくれてありがとう♪って微笑みながら。

あの笑顔は反則よ…

なによ!つい先日までオークちゃんだったのに!

しかもこの綺麗な宝石のついたネックレス、聞いたこともない魔導具で私を守ってくれるらしいじゃない。

しょ、しょーがないわね、こんなものいただいたらお礼をしなくちゃいけないわ!

もう少し大きくなったらお手つきにでもしてもらって…デュフ


「勘違いしないようにしなさい。

レオン様がもう少し成長すればとか思ってるんでしょ?」

「ど、どうしてそれを!!」

「顔にでてるわよ。デュフって。」

「くっ!」

「今のままが良いのよ!」

「え?」

「まだ何もしらない誰にも食べられる事のない青い果実よ!?

しかも素材は今回の鍛錬でほぼパーフェクツ!!最高かよ!

誰かにもぎ取られる前にお姉さんが優しくいろんな事を手取り足取り」

「まだ5歳の子供ですが…」

「はんっ!あなたにはまだ早いようね。この崇高で至高なる果実は!」

「ただの変態じゃないですか!

レオン様ー!!変態!変態がいますーーー!!出合え出合え!!騎士様達!曲者ですよーー!!」

「あ!こら!!ななななんでもないですよー、この子ったら変なキノコ食べちゃったみたいで!

げ、幻覚でも見えているのかしら、オホホホホ」


もの凄い力でねじ伏せられた…

カエラ先輩、ただ者じゃないわ。

でも、ネックレスとか凄く高価そうな結納品も貰っちゃったし

これからはわたしが優しーくリードしてあげなきゃ!


「おい…目覚めたな?」

「な、なにがですか!?」

「5歳の男の子相手に優しくリードしようなんて考えてたでしょ?」

「ばっ!バカな事言わないでくださいよ!」

「心配する事無いわ、そこが入り口なのよ」

「い…」

「い?」

「いやぁぁぁぁ!!!!」



こうして変態が+1になり

レオンの忠実なメイドがまた1人誕生したのであった。



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