第3話

「「いらっしゃいやし!!」」


ドアを開けた瞬間、従業員の明るい挨拶が浴びせられ、アルコールの甘い香りと香ばしい油の匂いが鼻腔をくすぐりました。

夜も遅いのに部屋が明るいのは、安い魔法石を

大量に使っているからでした。

居酒屋全体がオレンジの温かい光に包まれて活気が直に伝わってきました。


「アラン!!」


大きなビールジャッキを何個も持っている恰幅のある女主人は、アランをみつけると小走りで走ってきました。40代の恰幅のある体型で、捲った腕からは長年の仕事ぶりが伺え、この人のおかげでこの店は成り立っているだろうと、そう感じる風貌でした。


「よ」


「久しぶりじゃない!!あら、あんた、どうしたのこんな小汚くなって~。もうとっくに死んで獣の糞になったんだと思ってたわよ~」


「口悪すぎない?10年ぶりじゃん?」


「このおちびちゃんは?」


「俺の財布」


アランはわたしの頭に手を乗せてそう言いました。


「あら~随分きれいで罰当たりな財布だこと」


「よ、よろしくお願いします」


「ん〜聖職者様がこんなとこ来ちゃっていいの~?」


疲れから自分の今の格好が聖職者であることをすっかり忘れてしまいました。

聖職者はお酒が禁止されている、こんなのは誰もが知っている事実で、頭でグルグルと考えがめぐり、また失敗してしまったとパニックになりました。


女将はそんな動揺する私を見て、ニッコリ歯を出して笑いました。豪快で、爽やかな気持ちのいい笑い方でした。



「冗談よ〜。ここは誰でも受け入れウェルカムな居酒屋なんだから。うちの生草坊主もあそこで酔っぱらってるわよ」


「神は死んだ!!」


「ね!神様だってお酒お供えしてるし、お酒ぐらいじゃ怒んないわよ、楽しんで!!」


嵐のような歓迎を受け案内された席に座った時、アランは険しい顔になっていました。


「どっこいしょと。俺、姫ちゃんに言いたいことがあんだけど」


「あ、あのアランさん。私もはなしたいことがあって」


「ん、何?」


「わ、私は、旅を──」


「あいよー!!!!特性エール大二丁とバルコ豚の生ハムお待ち!!」


「ごめん、耐えれんから飲んでいい?」


「あ、どう──」


アランは待たされた犬みたいに目がバキバキに

私を見ていて、あまりの狂気につい飲むことを許可してしまいました。

そしてアランは私が返事をする前には既に口をつけ、そのままビールを胃の中に流し込みました。



「はぁ、はぁふぅ、ふぅーー」


「メメントモリ」


「死を意識しないでください」


なんだか自分が馬鹿みたいに思えてきました。


「とりあえず飲まない?もったいなくないって、今が一番うまいタイミングだよ」


目の前のビールはキンキンに冷えており

生ハムもなんか食べてくれというオーラが出ていました。


流石の私ももう限界でした。


昼間からの疲れと脱水のせいでもう我慢できなくなっていました。



「じゃあ一口だけ、そしたら話を聞いてくれますか?」


「わかった」


一口飲んだら話す。

私の意思は、鋼鉄のように固かったのでした。




□□□□





「アッハッハ!ステーキおいしい〜!!ビールおかわり〜!!」


「だろ!ここのはうまいんだって言っただろ〜!女将、店にある酒と飯、もうじゃんじゃん持ってきて。金は(財布係のこいつが)払うから。」



「かしこまり!!」


今考えるとすっかり出来上がってしまいました。

アランも何か不敬なことを言っていましたが、もうそんなのどうでもいいぐらい酔っ払っていたのです。


「アランさんさぁ、別に誰でも良かったんですよねぇ?」


「なにぃ?」


「だからぁなんでぇわたしなんですかぁ!?

わたしじゃなくたってぇいいでしょうが!!

足手纏いになっちゃうし!!」


「ん〜〜〜なんとなく?」


「にゃんとなくてにゃに!?」


「なんとなく、つまんなそうな奴がいんなって思ったんだよ。貴族とかあんな式典大好きだろ?なのに一人だけ、あぁ私なんでこんなとこにいるんでしょシクシクみたいな顔してたのよ」


「そんな風に見えてたんですか」


「俺がそんな哀れな子羊に人生の楽しみ方を教えてやろうと、そう思ったわけ」


「それだけで一国の姫を連れてこうと?」


「ま、俺勇者だし、なんでもできちゃうのよ。

姫ちゃんさぁ、人生やりたいことやんないとつまんないだろ、ほらもっと笑えよ~」


「痛い、痛い、痛いです!!」


アランは私のほっぺたをひっぱって遊び始めました。それを見てアハハと笑う彼はまるで魔王みたいな顔をしていました。


ひとしきり遊び、わたしの顔が酔いが少し冷めるくらいになったら、アランはふぅと一呼吸入れ残ったビールを飲み干しました。


「なんか言いたいことありそうだと思ってたら、そんなことだったとは」


「わたしにとっては、重大なんです」


「何年も旅してた俺からすると、こんな困難序の口だから気にする方が負けよ。明日からは、移動手段も考えてるから」


「なんですか?」


「それは、めんどいから明日」


「え〜」


「そうだ、なんかしたいことねぇの?温泉とか」


「……ないです。ずっと言われたことだけやってきたので」


「全く、これだから自己否定お姫様は。だったらやりたいこと探せばいいじゃんか?」


「はい?」


「時間はあるから、ダラダラ旅しながらやりたいことでも見つける。そうすればどう?最高じゃん?」


「……まぁ確かに」


「よし、じゃ暗い話は終わりにして明日からもよろしくな。システィ姫ちゃん」


「──こちらこそよろしくです」



私は頭を机につけた状態でそう返事を返した時、こんなに自分を曝け出して恥ずかしい姿を見せたはずなのにどこか満足した気分になったのでした。



□□□□


それから私たちはお酒を飲んで、飲んで、食べて、飲んで、歌って、踊って、飲んで、掘って、飲んで、笑って……。交流を深めました。

ほんとに楽しかったです。


ベッドの中で自然と笑みが溢れ

二日酔いもだいぶ良くなったようでした。

もう頭痛も気にならなくなっていたのです。


城の中の生活とは何もかもが違う部屋で、

私は生まれ変わったような気持ちでした。


そう、これから、この時から私の旅が始まるんです。












ん、土を掘って?


なんか記憶が曖昧ですね(笑)まだお酒が抜けてないみたいです。


まぁ大丈夫です。


少し窓を開けて空気を吸い込めば少しは二日酔いもよくなるでしょう。


私はガチャリと窓と開けて外の空気を


改めて、これから私の旅が本格始動するのです。


「ぎゃー!!!!アランが頭だけ出た状態で埋められてる!!!!」



目の前の畑でよく見知った顔が土からひょっこりでていました。

どうやらまだ寝ているようでなんの反応もありません。

周りのかぼちゃと相まってなんかファンタジー感がありました。


そして私は昨日穴を掘って彼が裸でサムズアップしながら穴に飛び込む姿を思い出しました。

あれ幻覚じゃなかったんだ。


女将はわたしを見つけると大きな声で挨拶し、そして付け加えるように言いました。


「あ、シスターちゃん。アランに言われた通り、昨日の料金あなたの部屋に明細送っとくからよろしくねー!!今までのアランのつけの分もあるから!!あと、普通に物壊しまくってたから弁償代もね!!」


私は窓を閉め、二度寝を決め込みました。

結局二日酔いは、寝るしか治らないのです。









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