第2話 


おはようございます。

ベッドの上から失礼します、システィです。

今日も晴れてるみたいで窓から入る木漏れ日が外では小鳥のさえずりが聞こえてきますね。

なんだかとても素敵な一日になりそうです♪




それはそれとして、皆さんは夢の中で体を地面に埋められてゴブリンにこん棒で頭をタコ殴りにされる夢をみたことはありますか?

私はあります。今朝がそうでした。

しかもゴブリンの顔が全てアランというおまけつきです。

何の罰でしょうか、これ?


日光も小鳥のさえずりも、ただ私の体調を悪くするだけでイライラしかしません。

そうです、嘘をつきました。

おまけに体もバキバキで全く動きません。

ハハハ、なんでもありですねこりゃ。


眠気がさえてきてこの体の不調について何かを考えた時、一つの結論を導きだしました。


そう、私昨日死ぬほどお酒を飲んだんです。


誤解しないで頂きたいのは、私は普段はこんなにお酒を飲むことはないのです。

城にいたとき父上から酒は身を滅ぼすと言われて、パーティーでも一二杯で済ませることが多かったんです。

そう、そうなんです。

いつもはそうなんですよ。

だったらなぜそんな私がこんな責め苦を受けているんでしょうか?


そこで私は、少しでも頭痛からそらすために昨日起きたことに意識を向けようと思いました。




□□□□□



旅に出て最初はただストレスしかありませんでした。

理由としては英雄であるあのアランとかいう勇者があまりにもふざけてたからです。

馬車なんか出るわけないと言った時のあの顔、心底嫌そうな顔をみたら皆さんもわかると思います。

しかもどれくらい金を使ってもいいのか、私に執拗に確認してくるのです。

そんな人いますか!?

勇者ですよ!?

あんの、ほんとに……今思い出しても腹立つ……。

いや、またストレスがかかってしまうのでやめましょう。


そんなダメ勇者に負けまいと私はアランより前に出て歩きました。



城から出てすぐの村まで歩いて行ったんです。

やめとけば、というアランの意見は無視しました。なぜならその距離なら私でも余裕だと思ったからです。


でも私の甘い考えはすぐに打ち壊されました。


最先は良かったのですが、歩けば歩くほどアランの方が歩行スピードが上がっていきました。いや正確に言えば、私のスピードが落ちていったんだと、今はそう思います。


会話もひどいものでした。


「姫様って食べ物何が好きなの?次の村で食べよう」


「スメールエビのビスクです」


「ビスク?おいしいの?」


「はい、今の季節だと南の海でとれるのが旬ですね。エビの旨みとと香味野菜の香り、そして生クリームのコクが合わさってとても美味しいんです。先日も食したのですが、メインにも勝る一品ですね。あ、そのシェフは南の国で修行していたそうなんですけど、他の人のビスクとは全然違うんです。ちょっとした違いで味に差が出る、本当に奥が深い料理なんですよね」


「ごめん、そんな高貴なものはないかも」


「あ、そ、そうなんですか……。ア、アランさんは何が好きなんですか?」


「俺?俺は酒かな」


「へ、へぇー素敵ですね」


「お、おう」


「……」


「……」


最悪でした。あまりにも会話が発展しないのです。しかも原因はどう考えても私でした。一方的に話して相手の話を聞こうという余裕がなかったんです。



さらに悪かったのは、私が歩くのに全く慣れていなかったということです。城内を歩くのと道の舗装がされていない道を歩くのとは全く別物でした。

歩けば歩くほど脚に鉛がついていく感じです。

脚が疲労でうまく動かなくて、足底もいままで感じたことのない痛みまで出てきたのです。


私はアランに休憩を申し出ました。

休めば少しは回復するとは思ったんですが、むしろ休むほど足が動かなくなっていき、最終的には全く歩けない状態になりました。

皮肉なことに馬車がでないと啖呵を切っておきながら、一番馬車が欲しいと思ったのは私の方だったのです。アランはでかいバックを拾っちゃったと笑いながら、最後は背中におぶって村まで運んで行きました。


結局目的地についたのは予定よりも大幅に遅れ、夜も更けたころでした。



□□□□


「馬車なんていらないって言ったのはどこの誰だっけ~?」


ぷぷぷと笑いながらアランは荷物を部屋に運び入れました。

疲労困憊で、運んでもらった私に何かいう権利はあるわけありません。


「……すいませんでした」


「おいおいそこは怒るとこだろ?行くときみたいな勝気悪役令嬢みたいな態度はどうした?」


「……」


もう何も言い返すことができませんでした。

悪いのは全部自分だったからです。

一言でも言えば、自分の不甲斐なさで泣いてしまうと思ったんです。


「まぁゆっくり休んでな、すぐ戻るから」


その声はアランとは思えないぐらい優しいものでした。




アランがドアを閉めた後、一人で残された部屋の中、私は静かに泣きました。


正直、自分に自信がないわけではなかったんです。


城の中では私は特に困ったことはありませんでした。まわりは話をあわしてくれるし、なにか批判されることもない。そんな環境でいたから自分がどんな人間なのかわからなくなっていたのかもしらないと、その時に初めてわかったんです。


つまるところ私は何もできない世間知らずなただの娘だったのです。


それを自覚するとどうしても自分が情けなくなく、消えてしまいたくなりました。



□□□□□


「寝てるときよだれでてたぞ」


いつのまにか寝ていたようで、目を覚ますと目の前にアランの顔がありました。

先ほどから何か気配があると感じていたのですが、驚きのあまり思わず突き飛ばしてしまいました。


正直、アランにはメイクも汗と涙でぐちゃぐちゃで土埃まみれの顔は見てほしくなかったのです。


「か、勝手に入らないでください」


「いてて、だってなんの反応もないんだからしょうがないだろ」


今日1日、たった1日一緒にいただけではっきりわかったことがあります。

私はこの旅についていく資格がないということです。アランは置いてくなんてことはしないでしょう。だったら、私の方からもう行きたくないと言えばいいと、そうすればアランも私を置いてくだろうと、そう考えたのです。



「あ、あの私」


グギュ〜〜〜〜ギュルギュルバリキュシ。


意を決して旅を辞退しようとした時、とんでもなく大きな音が私のお腹から聞こえてきました。


「……」


「……」


「……違います」


「んぁ、オレキコエテナイヨ」


「ほんとに違うんです!」


「アハハ、元気そうで良かったよ」


アランは大笑いして私の話なんて聞く気なんてありません。


せっかく大事な話を切り出そうとしたのに、なんで身体も私を裏切るのでしょうか。

恥ずかしさで顔がほてって目を合わせられなくなってしまいました。

もう踏んだり蹴ったりです。


「あー、笑った。食欲あるのはいいことだ。よし!!ちょっとぐらいなら歩けるか?」


「歩けますけど、どこに行くんですか?」


アランはニッと笑って手を差し出し、こう言いました。


「旅の醍醐味は飯に決まってるだろ、準備はいいか食いしん坊姫」





























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