王女の私がダメ男の勇者に連れられて自堕落旅始めました!

牛蒡飴

第1話 

「旅いきてぇな……。こんなウンコみたいな式典抜け出してぇ、マジで。なんの意味あんだよ〜。あ、屁出た」


その無精髭とボサボサ髪の男の人は、城にあるバルコニーから深いため息とともに愚痴を吐き出し、頭をかいていました。その発言聞いて私は──本当はよくないのですが──痛快さを感じました。


かくいう私も王家の生まれで、格式を重んじる貴族の社会で生きてきましたから彼の言い分がなんとなくわかったのです。

体裁のために行われる式典が多くそれに息苦しさを感じていたのです。

愚痴として吐き出せる場も相手もいないので彼の言葉をずっと聞いていたいと思ったのです。




まぁ、ここが魔王討伐の式典じゃなければ良かったんですけどね。

しかも主役の勇者様ですし。



普通勇者様はそんなこと言いませんから、民がざわついちゃってました。城前広場に集まった約50000人が。そりゃそうですよね。前評判だと端正な顔つきとクールな言動、でも心には熱い心を持った英雄でしたから、来たのがゴブリンみたいな人です。なりすましかなんかを疑うのが普通な状況でした。



お父様ももう顔中血管浮き出て、なんか、笑っちゃいました。もうみたことないぐらい怒ってて、こんな人って怒れるんだって思いました(笑)。


そんなふうにおもっていると、どうやら愚痴が終わって満足したらしく勇者様は晴々とした顔で〆の段階に入りました。


「あー、終わったら酒飲も。はーい皆さーん解散でーす。帰った帰ったー」



このだめだめすぎる演説をみたので、私にとって勇者様って意外とおちゃめな方なんだなってそんなふうに他人事のように感じていました。この時はですけど。


□□□□□


「勇者や、辞世の句ぐらい聞いてやろう」


父上はすごい優しく、子供の頃私を寝かしつけるときにかけるおやすみぐらいの声で、処刑人に勇者処刑を命じられた。勇者は私達の前で縛られており、その両隣には頭に麻袋を被り手に血が染み付いた大きな鎌を持った巨体の処刑人達が立っていました。私はこの時、『あ、この国にもこんなステレオタイプな処刑人いたんだ』という驚きが先にでてしまいました。


「お父様!賢王と呼ばれこの混沌とした世で民を導いてきた貴方が、この様な法を無視した蛮行をなさってはなりません!!」


「システィ、法律は感情には寄り添わんのだよ。こんな父を許してくれ……。うぅ、こんな父を、許してくれ……。やれ」


父上は無礼者に対する怒りと賢王としての理性がぐちゃぐちゃになっていました。


そして父上の命令を聞いた二人の処刑人は、大きく鎌を勇者様の首に振り下ろしたのです。そしてこれから起こる惨劇に、私は耐えられず目を背けました。


ですが耳に入ってきたのは首が落ちたにしては大きすぎる音。

目を向けると倒れた処刑人の間で、勇者様が立ち上がり、静かに歩き出しました。

近衛兵達は恐怖のあまり剣を抜き、勇者様に刃を向けましたがそれはなんの意味もないと誰もがわかっていました。彼は、魔王を倒した英雄だと、人理を外れた英雄なのだと誰もが思い出したんだと思います。


しかし勇者様は膝をたて深々と頭を下げました。


「王よ、ご無礼を働き申し訳ございませんでした」


口から出た言葉は、あの演説をした男のものとは思えないぐらい落ち着いていました。


「……何をした?」


「ご安心を、気絶させただけです。私の実力を試すにしては少々この試練は優しすぎますよ、王様」


手から出る青い電流は、その発言を裏付けるのに最適な代物であったのはいうまでもありませんでした。


「なぜあのような愚行を働いた?余の顔を潰すつもりだったのか?」


「愚者を演じれば、私が動きやすくなりますでしょう」


「なに?」


「世界にまた危機が迫っています」


「ま、まことか!?」


「確証はありませんが、それを調べる必要があります。だからこそ世界を周る必要があるのです」


父上は大きなため息をつき、賢王として彼は話を聞いていました。もう処刑なんて戯言をいう余裕がなかったのだと思います。


「其方はわかっているだろう。たとえ世界のためとはいえ、勇者を移動させることは軍を動かすことと同義。他の国がなんというか……。現に西の帝国は中央の資源地帯を狙っているそうだぞ」


「確かに、権力の空白に対して私一人では緊張を高めてしまう……。うん、それならば姫も一緒にどうですか?」


「うぁい!?」


まさか私の名前が出てくるなんて思いませんでした。難しい話をしてたのでうつらうつらしてたので、心臓がギュッとなりました。


「姫も一緒に行けば、私が平和の使者だという箔がつくのではないですか?まさか戦争を起こすものが、大事な娘を連れてくるなんて道理はありませんからね」


「え、ちょ、ええ勇者様、私全然理解できないのですが?父上からも言ってください」


「なるほど、システィ行ってくれ」


「父上?」


即答でした。崖から落とされたライオンの子供ってこんな感じなんでしょうね。


「連れて行ってやってくれ」


そして、私はあれよこれよという間に準備をさせられました。そしてこれが、私の優雅な生活との決別することになりました。




□□□□□



「お、来た」


「いやなんですか?これは?」


私の服は、豪華で華美なものから聖職者の姿になっていました。黒の中に金の装飾がされた服で、豪華とは対局の洗練された美しさがあってとても気に入りましたが、いかんせん動きづらくこれである理由は思いつきませんでした。


「聖職者って規制がゆるくて国にはいるとき便利なんだ。上には姫ってことで通してるから大丈夫大丈夫」


「大丈夫って言われましても」


「まぁとりあえず酒飲もう。お勧めな酒場あるから」


「ちょちょ待ってください!世界の危機だって時にお酒を飲むなんて悠長ですよ!」


「あぁ、あれはその場のノリだよ」


「ん?」


「ん?」


「いや、好き勝手旅するためには大義名分が必要だろ。そのためには王様のお墨付きが必要だ。そこで、他国への使者として姫さまが一番だと考えついたわけだ」


もじゃ男はペラペラと何かを言っていましたが私には何も理解できませんでした。


「しかも……」


「しかも?」


「俺報奨金使っちゃったから金ないの、財布がほしいの。お金ってすぐなくなるよね。あと俺最上級の馬車じゃないと酔っちゃうんだよね」


ゴミはなんか照れくさそうに笑ってました。そしてあろうことか、馬車も上等のものをもってこいというのです。


「あー楽しみだなぁ。俺のことはアランでいいから。早速馬車よろしくな」


手をあげてパチンと指をならし決めポーズをとったゴミは、しばらくそのままを維持していた。私が反応しないとなるとわかると再び指を鳴らし始め何度も何度も繰り返しました。あまりにも間抜けだったので私はその光景を見て苦笑いしました。そしてどうしようもなく腹が立って、ゴミの顔面に渾身の右ストレートをぶちこみました。



今回のことで私が学んだことは、二つ。

一つは世界は自分の意思とは関係なく動くこと、そしてその中で自分を信じて行動しないといけないことということでした。この教訓はなんの因果かずっと私にまとわりつくことになるとは思ってもいませんでした。






















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