𐎢‎𓊆4録𓊇𐎽 本蓮沼サクラ CV:山下美香









___タッ、タッ、タッ、タッ………









「あれ?通路の奥の方から足音聞こえない?」



ドアを開けっ放しにしていたため、通路の様子はいつでも確認できる状態。


足音が大きくなり、誰かが近付いてくるのは分かった。


私は部屋から顔を覗かせて通路を見渡す。すると、右側から見覚えのある姿をした女の子が走ってきた。


緑色のセミロングの、短めのポニーテール。左頬にはバーコードのようなタトゥーを入れた女の子………間違いない、本蓮沼サクラだ。


本蓮沼というのは、中の人である山下やました美香の実家の最寄り駅である。


地元大好きな美香が元の苗字から「本蓮沼にしてくれ」と社長に直談判して、旧姓となってしまった"夜束よつか"という苗字から本蓮沼に変更された。


社長、脱税とか横領とかやらかしていたけど………演者とスタッフには凄い優しい人だったから。


耐久配信とかも止めるように言ったり……どうしても、やりたい場合は確実に2時間以内で終わる見込みがあることが前提でやらせたりと………VTuber事務所としては、演者にとっては相当ホワイトな職場環境であった。


個人事業主扱いなのに、例えば配信時間が打ち合わせよりも長引いてしまった場合は、15分ごとに残業代出してくれたりね。


事務所や現場に向かう時の交通費も定期代やIC料金じゃなくて、切符代での往復で出してくれたり………徒歩で来ても完全支給という。


それで馬鹿みたいに交通費をチャリ通勤で稼いでいたのが、楓夏依。運動にもなるし、小遣い稼ぎだ!!ということを言い、電車を使わずにチャリでどこにでも向かうのだ。


家の最寄り、埼玉の和光市なのにね。


そこから新宿とか渋谷とか………最高は幕張メッセまでチャリ通勤したような脳筋女です。


コイツのは交通費払わなくてもいいんじゃないのかな?って思うくらいに、楓夏依を除く同期3人で話していたよ。



チャリ通勤の鬼、楓夏依も私に合わせて顔を覗かせて「おっ、サクラやん!!」と、私の耳元で咆哮のような声量で「おおぉぉぉいい!!」と呼び掛けた。



私の鼓膜、ブチ殺す気ですか?と。ふざけた幻想のようにブチ殺す気ですかと言いたくなった。



「あっ、えっ?はぁ?カレン、と?ユキ………?」


「あっ、まぁ〜、そうなんだけど。そうじゃないっていうか」


「あっ、私と同じ状況ってこと?ガワが本当の身体になってるっていう」


「「そうそう」」



流石は東大医学部出身の地頭だけは良い女だけある。


頭の回転は早い。MENSA会員にもなっているほどのIQの高さもあって、その高い知能を活かしたパズルゲームや物理演算ゲームの実況で結果を残している。


VTuberデビューしてから直ぐに、テトリスの大会で優勝し過ぎて殿堂入りを果たして、実質上の大会出禁を食らうというレベルまでの圧倒的な強さの、頭脳派VTuber。


しかし、理系ではない。


論理的思考っていうのは嫌いなタイプで、割と小説とか書いている方が好きだったり、東大医学部に通っていたのに文系に偏っているという珍しい人種。


地頭だけで東大医学部入れる天才。


天才なのは知能指数だけではなくて、ダンスなども飲み込みが早く、生まれた頃からクラシック音楽が流れているような環境で育っているため、絶対音感までも備えている本物の神童。


そこまでの神童扱いになったのも、両親が音楽家で教育熱心過ぎるタイプのセレブ型の毒親で、元々は母親と同じバイオリニストにするつもりだったらしいが………「下らない」と猛反発して、それで音楽とは掛け離れた高校、大学に進学して、研修医を経てからVTuberデビューという経歴お化けの一面でもある。


尚、本人は「配信でウケるんじゃね?」っていう理由で無理矢理習わされたバイオリンを普通に弾いている。


メルカリで5000円くらいの安いバイオリンを買ってきて、それを使って弾き語りをするという………バイオリンで弾き語りという新しいコンテンツの生み出した女でもある。


バイオリン弾きながら、洋楽をカバーしていた。バイオリンの弾き語りでジャスティン・ビーバーやマイケル・ジャクソンを歌ったり、バイオリンでEDM音楽を演奏したり……という、天才ならではの奇天烈な発送で人気を得ていた。


ポテンシャル自体はめちゃくちゃ高いが、かなり天然が部分が多くて、本人も「ADHDだから」っていうのを診断書を普通に見せてきた。


でも、言われなきゃ分からないくらいにコミュニケーションも普通だし、周りと特別違うようなことも無い。


ただ、天然なだけ……みたいな?感じ。そこまで重度じゃなくて、エレベーターをボタンを押さずにじっと待って、少ししてから気付く……くらいなもの。


私としてはこれは軽度の天然だと思っている。これを軽度と捉えるか、重度と捉えるかは個人の価値観に寄るかもしれない。



そんな同期の一人の、山下美香ちゃんでございます。


ちなみに、兄は元トップアイドルで今は俳優業に専念しているという………バチバチの芸能一家出身でもある。


血は争えないってこういうことを言うんだなって美香を見ていると実感する。

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