光源

しき

第1話

 海辺にある今はれた神社の裏手にある常夜灯に火を灯してはならない。恐ろしいモノが見えてしまうからね。


 これは俺の村に伝わる古い言い伝えだ。当時、中学生だった俺は夏休みの夜にこの噂の真意を確かめることを決めた。

 今思うと馬鹿馬鹿しいが自分のちょっとした武勇伝を作りたかったのだ。ひいでているものが特に無い俺はこの様なことでしか自分の承認欲求を満たす方法を知らなかった。

 親も寝たであろう夜中に俺はスマホと数本のマッチと蝋燭ろうそくだけを持って家を抜け出して例の神社に向かった。

 光源はスマホのライトと月明かりだけで当たり前だが昼間で見るよりもずっと気味が悪かった。特に参道の両脇にある人魚の石像がひどく不気味であった。


「普通は狛犬こまいぬか狐だよな。人間の顔ってこう見ると何か嫌だなぁ」


 証拠となる映像を残すためにスマホのカメラで撮影しながら呟く。何か気の聞いた事を言えたら良かったのだが、俺はそんなに器用ではないらしい。己の怖さを誤魔化し、強がるのが精一杯だった。

 後で知ったことだが、この神社は昔、この島に打ち上げられた人魚を供養するために造られたそうだ。海辺の常夜灯は人魚の魂が彷徨さまよわないないようにするための意味もあったらしい。

 とにもかくに俺はすっかりびびってしまい。神社の探索はやめて今回のメインである常夜灯に足を進めた。

 常夜灯を見つけて慣れない手つきで苦戦しながらも蝋燭ろうそくを常夜灯の中に設置し火をつける。そして緊張しながらスマホのカメラで常夜灯と周囲を撮影する。しかし、その緊張に反して変わった様子はなく、周囲からは波と虫の音しか聞こえない。

 しばらくの間は怯えながらもその状態を保っていたがあまりにも変化がないので次第に馬鹿馬鹿しくなってきた。


「まぁ、こんなものか…。もう帰って寝よう」


 撮影を止めて誰に伝えるわけでもなく、俺は一人そうぼやきながら蝋燭ろうそくを消そうとした時。


「…ケテ…ケテ…ケテ」


 と海の方から甲高い声が聞こえてきた。それに伴い腐った魚の様な匂いがし始めた。

 俺は声の聞こえた海の方を見る。夜の暗闇の中にある海が一層黒く感じた。そしてそこに異様なモノが海中から出ていた。


 それは女性の顔の様に見えた。しかし、決定的に違っていた。まずそれは魚の様なうろこがびっしりと張りついていた。口には歯がなく、黒い謎の泡立つ液体を垂れ流していた。そして何よりも異常なのがその顔の様なモノは近くにある岩礁がんしょうよりも大きかった。

 つまりは顔だけで俺よりも大きいのである。

 それと目が合う。その時、俺はそれが笑った様に見えた。


「うわぁぁ!!」


 俺は蝋燭ろうそくの火も消さずに叫びその場から逃げ出した。そのまま何とか家に帰った。幸いにも家につく頃には叫び疲れ両親を起こすことはなかったが、その夜は恐怖で一睡もできなかった。

 日が昇っても俺は部屋から出る気にはなれななくほぼ一日中布団の中で過ごした。

 ふと一つのネットの記事が目に留まる。海岸で乗組員が見あたらない船が流れ着いたというものだ。恐らく夜中なに活動をしていた密漁船であるということだが、船には謎の黒い粘液が大量についていたと…

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光源 しき @7TUYA

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