第40話 寝坊

出勤時間を過ぎて一時間。

連絡もメッセージの返信もない理人。

仕方ないので非番だった店長自ら家に呼びに来た。


インターホンを鳴らす。


応答はなし。


もう一度鳴らす。


応答はなし。


「おーい!理人!起きてるかー?」


どんどんと扉を叩く。


応答はなし。


ドアを引いてみる。


(開いてる…?)


少しだけ覗いてみることにする。


「おーい、理人ー」


そこから見える範囲に理人が倒れていた。


「お、おい!理人」


慌てて駆け寄る。


何度も名前を呼んで身体を揺するとゆっくりと目を覚ました。


「おい、大丈夫か?」


「はい、すぐ行きます」


「まてまて、行かなくていいからとりあえず座れ」


身体を起こしてその場に座らせる。


「一体どうしたんだ?」


「どうって…、あれ?店長がいる」


店長はため息をついて状況を説明した。


「す、すみませんでした」


理人が顔を青くして謝罪する。


「いいよ、とにかくソファにでもいこうか」


理人は店長に支えられながらソファに向かう。


「飲み物持ってこようか?」


冷蔵庫開けるぞ、と言って店長はキッチンへ向かう。


手に水の入ったペットボトルを持って戻ってくる。

眉間にシワを寄せながら。


「冷蔵庫の中、ほとんど空だったけど何食ってんだ?」


「…最近、食欲がなくて…」


はあー、と店長ため息をつく。


「それにこの部屋、お前が漫画を描いてるのは知ってるが散らかりすぎだろ」


「ちょっとでも描かなくちゃいけなくて…」


店長が隣に座る。


「何をそんなに思い詰めてるんだ?」


理人はしばらく黙っていた。


「思い詰めてるつもりはなかったけれど…」


また、しばらく沈黙する。


「そうだったのかもしれない」


水を一口、口に含む。


「少し前から食べ物の味が不味くて、食べたくなくなって。漫画は全然いいものが描けなくて、面白くないって言われて…」


手の甲が濡れた。


「それから、時間ばかりが過ぎてって…」


また手の甲が濡れる。


「キュイまでいなくなったら…」


次の雫が頬から落ちそうになる。


「どうすればいいのかなって」

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