第39話 遊び

店長と美帆が来た。


「うわ、大分毛が抜けたね!」


キュイの顔とお尻は完全に毛が抜けていた。


「あの真っ白のときとは別の生き物だな」


「なんか不思議な感じするよね」


とりあえず柵を広げて3人キュイのもとへ。


3人並んで座る。


やはりキュイは店長が好きなようだ。

一番に駆け寄る。


「おお、キュイはいつもすぐに来てくれるなぁ」


店長がキュイを抱え上げる。


「でっかくなったな、キュイ」


「ね!前は両手のひらの上に乗るくらいだったのに」


ふたりがしみじみと話している。


キュイは店長の身体に登ろうとする。


「お、登るか?」


店長はされるがままに登られる。


肩まで登り、それから足をかけて頭の上までよじ登る。


「ちょっ、キュイ!待て!やめろ!」


店長が慌て始める。


キュイがもしゃもしゃと店長の髪の毛を食べようとしている。


「駄目だよ。ばっちいから、お腹壊すよ」


慌ててキュイを引き剥がす。


「ばっちくねえよ」


怒る店長。

それを見て大笑いする美帆。


「次は私!」


美帆が立候補する。


「おいで!」


キュイがゆっくりと美帆の方に向かう。


そのまま膝にあげられる。


キュイは撫でられている。

気持ちよさそう、というよりは仕方なくといった様子。


スマホのカメラを起動する。

店長もニヤニヤとしている。


「なによ、ふたりとも」


不満気に美帆。


「別に?キュイからどんな仕打ちを受けるのかなって」


店長に同意して頷く。


「何もないわよ!ねぇキュイ」


美帆はキュイに顔を近づける。


どうなる?

と思って見ていたがその光景は珍しいものだった。


キュイは美帆の頬に顔を擦り付けた。


「キュイ〜ありがとー」


美帆は嬉しそうにしている。

それを写真に収めた。


何かあるかとしばらくスマホを構えていたがキュイは変わらず顔を擦り付けている。


キュイが何か言っているなら、そうだな。


『今までありがとう』


頭によぎった瞬間、胃から酸っぱいものがこみ上げてくるのがわかった。


「ねえ。そんなことよりこの前の話の続きしようよ」


動揺は隠せていなかったと思う。

ふたりは眉間にしわを寄せていた。


「この前の話って?」


察しの悪い返事に少し苛立つ。


ホワイトボードを持ってくる。


元の世界・動物園とだけ書いてふたりにみせる。


ホワイトボード出てきたよ、と店長はつぶやいた。


「どうすべきかの会議」


ふたりはまた眉間にシワを寄せる。


「それはいいけどさ、結局お前はどうしたいんだ?」


言われてから言葉にするのに随分と時間がかかった。

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