第38話 再び動物園

また動物園に来た。

もう一度サラマンダーが暮らす姿が見たくなったからだ。

と言ってもしばらく眺めて帰ることにした。

ここのサラマンダーたちは幸せそうに見える。


動物園や施設に引き取ってもらうのも悪くないのだろうか。


(グリフォンって書いてある…)


前回は気づかなかったがこの動物園ではサラマンダーの他にグリフォンも見れるらしい。


ちょっと寄り道して見ていくことにした。


グリフォンのブースも建物の中にあった。

建物の中に入るとすぐにグリフォンが見えた。


(でっかいなぁ)


上半身は鷲、下半身は獅子の大きな生き物。

鋭い眼光で威風堂々としている。


かっこいい、と思ってしばらく眺めていた。


「どうかなさいましたか?」


「え?」


振り向くとメイド服の女性が立っていた。

首からはスタッフの名札がかかっている。


変わったスタッフもいるようだ。


「随分と思い悩んでいるように見えましたので」


そう言われてドキリとした。


「そんな風に見えますか?」


「ええ、そう分析されます」


変な言い回し。

変わり者だ。


「私はグリフォンのお世話を任されております。アンドロイドのエラと申します。何かお力になれることがあればなんでもお申し付けください」


驚いた。

アンドロイド、それに世話係。

アンドロイドが動物の世話をするというのは聞いたことがなかった。


「えっと、グリフォンの世話は大変じゃないですか?」


エラを見る。

人間との違いがわからないほど精巧だ。

しかし目を見ていると違和感に気づける。

瞬きをしていないのだ。


「大変、というのはわかりませんが…」


エラはグリフォンの方を見る。

グリフォンもそれに気づいて近づいてくる。


「私はこの子のお世話ができて満足しています」


エラがガラスに手をあてる。

グリフォンはその手に顔を近づける。


「そうですか…」


エラとグリフォン、ガラスを挟んだやりとり。

それがとても尊いものに思えた。


「仲良しなんですね」


「そう見えますか?」


「とっても信頼されているように見えますよ」


エラが手を振るとグリフォンはガラスから離れていく。


「この子がいなければ私は処分されていました。しかし、この子は私がいなければ元の世界に帰れたはずだったのです」


「え?」


「この子にとってはどちらが幸せだったのでしょう」


エラがじっとこっちを見てくる。

機械的な瞳が自分を試しているような気がしてしまう。


「どう、なのでしょう」


それ以上言葉が出なかった。

こっちが聞きたい、そうとしか思えなかった。


何かを感じ取ったのか、それともただ言いたかっただけなのか、エラがふわりとした笑顔を見せた。


「私が以前そう尋ねたら、幸せだと信じるしかない、と言われました」


(信じる、か)


どんな選択をしてもそれが幸せだと信じるしかない。


「少しは気が晴れましたか?」


そう言われて目を見開いた。

アンドロイドは人の感情を読み取って行動するらしい。

ならばこの話で気が晴れると思っているこのアンドロイドはやっぱりどこかおかしい。

そう思うと笑ってしまった。


「では記念にお写真を撮りましょう」


エラはどこからかカメラを取り出した。


「ローラ、来て下さい」


ガラスを弱く叩くとグリフォンが寄ってくる。


「では、撮りますよ」


されるがままグリフォンとのツーショットを撮られる。


「キレイに撮れました。そちらに送ります」


スマートフォンと繋いで写真が送られてくる。


やっぱり変わってる。

撮られた写真を見てそう思った。


ーーーー


タイトル『再び動物園』


再び動物園のサラマンダーを見に行ってみた。

相変わらず幸せそうに見えた。

グリフォンの飼育員と話もできた。

色々とゆっくり考えたい。


グリフォンが中央に写り、理人の身体が切れている写真を貼ってノートを閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る