第37話 お眠

キュイと遊ぼうと柵の中を覗く。


珍しく大人しくしている。


「キュイ」


名前を呼ぶと顔を上げる。

けれどすぐに頭を伏せてしまう。


元気ない?

そう思っていると大きな欠伸をひとつ。


眠いのか、と思って柵から離れる。

そしてそのまま机に向かう。


真っ白なノートを開け、集中しようとする。


タイムリミットは今週中。

今週中というのは自分で決めた期限。


先延ばしぐせはそろそろ直さねばならない。

例え寝る時間がなくとも完成させる意気込みだ。


しかし問題がある。

なんの案も浮かんでいないことだ。


(自分が描きたいもの…)


考えてもわからなくなった。


もともと好きだったものはぐちゃぐちゃになって跡形もなくなった。


描きたいものなんて言われてももはやわからない。


とにかく面白ければいい。


そうなのだが面白いと思えるものが描けない。

平坦で凹凸のない道、そんなストーリーが出来上がる。


ため息混じりの息を吐く。


ガサガサ。

キュイ部屋の方から物音がした。


どうかしたのかと覗きにいく。


柵の、いつも出入りしているところの前でこちらを見上げている。


少し遊ぼうと思って中に入る。


キュイはゆっくりと膝に登ってくる。

撫でてやると気持ち良さそうに欠伸を一つ。


(お!)


なんとなくカメラを構えていた甲斐があった。


見事に欠伸の真っ最中、口を大きく開けた姿を写真に収めることができた。


よしよし、と思って写真を確認する。

完璧に写っている。


妙な達成感を覚える。


キュイがもそもそと動く。

どこかに潜ろうとしているようだ。


手のひらを頭の上に被せてやると動かなくなる。


(今日は遊んでくれなさそう…)


少し寂しさを覚えながら時計を見る。

時間は深夜3時。


もうこんな時間だったのかと驚く。


(そっか、眩しくて寝られなかったのか…)


こんな時間まで電気をつけていたから寝付けなかったのだろう。

机のスタンドライトだけだったから気にならないと思っていたがそれは人の感覚なのだろう。


「ごめんね、すぐに電気消すからね」


「キュウ」


ひと声鳴いてのそのそと寝床へ戻っていく。

眠そうな鳴き声。

いつもがキュウ!なら今日のはキュウ↘という具合だ。


寝床に入る前にチラリとこちらをみる。


(お前もそろそろ寝ろよ、みたいな感じかな?)


キュイにそう言われてはしかたない。

今日はもう寝ようとベッドに向かう。


おやすみ。

聞こえないほど小さな声でキュイに言って部屋を出る。


日記は明日書こう。


結局先延ばしぐせは直っていないようだ。


ーーーー

タイトル『お眠』


キュイ部屋の隣で作業をしていたせいでキュイが寝られなかったみたい。

今後、夜中の作業は別のところでやることにする。

今日はお詫びにおやつを多めにすることにした。


最後に欠伸中のキュイの写真を貼ってノートを閉じた。

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