第36話
「おーいたいた」
理人が座る、喫茶店の隅の席に店長がやってくる。
「美帆はまだか?」
「まだバイトだって」
「あれ?そうだったか」
「何か頼みますか?」
「そうだな、アイスコーヒーにしようかな」
理人が店員を呼び注文を済ます。
「それで?今日はなんで喫茶店なんだ?」
「うーん、相談?」
「なんで疑問形なんだ…」
「どうしたらいいと思いますか?」
「何を、だ」
そこにアイスコーヒーがふたつ運ばれてくる。
「店長はガムシロップ入れる派ですか?」
入れない、と断る。
店長はコーヒーを一口飲んでからまた口を開く。
「言いづらいんだろうが話してくれないと答えられんぞ」
理人は一気にコーヒーを飲み干した。
「キュイのことです」
「なにかあったのか?」
理人は小さく首をふる。
「一緒に暮らせるのがあと半年くらいになったんです」
半年、と店長が呟く。
「2年って言ってなかったか?」
「色々あるんです。生まれてから2年なので拾った時点で生後数ヶ月経っているとその分短くなったり」
なるほどね、と店長。
「それで、聞いてなかったと思うけど2年たったらキュイはどうなるんだ?」
「どこかに引き取って貰うんです」
「そうか、どこに?」
その時、スマホが鳴った。
「美帆、もうすぐ着くって」
「なら、続きは着てからにしようか」
しばらくすると美帆がやってきた。
「おまたせー…しました?」
どこか暗い雰囲気を察したのか静かに店長の隣に座った。
「よし、聞こうか」
「え?なになに?怖いんだけど」
「うんとね、キュイと一緒に暮らせるのがあと半年くらいになったんだ」
美帆は目を見開いてしばらく黙っていた。
「それで、どうなるの?」
「選択肢は3つあるんだけどね。1つ目は成体になっても飼い続けられるような家と設備を揃えて飼い続ける。2つ目は動物園とかの飼育できる施設に引き取ってもらう。3つ目は幻想世界へ返してあげる」
一呼吸置いて尋ねる。
「どれがいいと思う?」
うーんと、2人は唸る。
「設備を揃えるってどのくらいかかるんだ?」
「とてつもなく」
「だろうなぁ。どうにもならんか」
「うん、だから本当はどっちかなんだよね」
「私は、動物園に引き取ってもらう方がいいと思う。会いたい時に会いに行けるし」
美帆がそう言った。
「店長はどう思いますか?」
うーん、とまた唸っている。
「どっちがいいんだろうな。元の世界でのびのび暮らすのか、動物園でまた会えるところにいてもらうのか」
「結局どっちがいいんですか?」
美帆が聞く。
「どう、キュイに生きて欲しいかじゃないか?動物園なら狭いところに閉じ込められるけど安全でエサもちゃんと食べられる。自然に帰すならサラマンダー本来の生活ができるだろうけど危険もあるだろう」
「まあ、その通りだと思うけどさぁ、自分がどうしたいかも大事じゃん。また会いたいとか」
そうかもなぁ、と店長はしみじみ呟く。
「どうしたいと思ってるんだ理人」
「正直、元の世界に帰してあげるのが一番だと思ってた。勝手にこっちの世界に連れてこられて狭い空間に閉じ込められて可哀想だと思ってた。でも、今帰ってらちゃんと生きていけるのかなって心配になる。それにまた会えるのなら動物園もいいのかなって」
理人は机に突っ伏した。
店長が頭を軽く叩く。
「まだ時間はあるんだろ?」
「うん」
「ならしっかり考えろ」
「うん」
「いつでも相談のるからね」
美帆も言う。
「とりあえずまた遊びに来て」
「もちろん」
ふたりが声を揃えて言った。
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