第34話

病院の定期検診。

問題なく終えて帰宅。


定期検診は病院の好意でかなり安くしてもらっている。

しかし、往復の移動費だけでも痛手だ。


キュイを移動用ケージから出してご機嫌とりのおやつをあげる。


ペットは病院を嫌がる。

病院に行くとわかると逃げようとする。

だから病院が終わったら褒めてご褒美をあげてご機嫌とりをしないといけない。


そう聞いていたので病院から帰ってくると一番におやつをあげている。


あげてはいるのだがそもそもキュイは病院を嫌がったことはない。

検診も大人しく受けている。

暴れるどころか動いて検診が進まなかったことすらない。


そうなるとおやつはご機嫌とりのつもりだったが機嫌を損ねていないならこのおやつはなんと呼ぶのが正しいのだろうか。


そんなくだらないことを考える。


ご褒美はやっぱりりんごだろうと思ってりんごをあげている。


一番好きなのだろう。

他の果物とは反応が違う。


食べ終わるまで眺めている。


食べ終わってキュイ部屋に戻す。

それからしばらく遊んでやる。


遊ぶと言ってもキュイに身体を自由に登らせてやるだけだ。


膝から腕をつたって肩に上る。


首の後ろに回って反対の方へ。


首まわりがくすぐったいが今日は我慢。


服の中に入ってこようとする。

さすがにそれは阻止する。


何周かして飽きたのかするりと降りていく。

そのまままっすぐトンネルへ向かう。

今日の遊びはここまで、と思ったが魔がさす。


トンネルの入口と出口をくっつけて円にしてみる。


トンネルが膨らんでキュイの居場所がわかる。


膨らみが移動していく。


一周、二周、三周とぐるぐる回っている。


四周目、おかしいと思ったのか逆走が始まる。


入口と出口を離す。


すると器用にお尻から出てきた。


なんで?と思っているのか首を傾げている。

トンネルの周りを観察してから離れてケージへ帰っていく。


ケージは前面の柵を外した。

すっかり大きくなった。


ケージはクッションを置いて完全に寝床になった。


あくびを一つ。

顔の毛はすっかり抜けてライオンの立て髪のようになっている。


眠そうにしているのでキュイ部屋の柵から出ていく。


時間は午後2時。


一息つきたいがそんな時間はない。

そのまま机に向かう。


ノートを開いてペンを持つ。


とにかく何かを描かなければ。


集中、集中、集中。


思いつかない。


集中、集中、集中。


思いつきを書いて一行。


すぐに没になる。


集中、集中、集中出来ない。


開始して30分ちょっとで音をあげる。


部屋を出てリビングのソファに寝転がる。


お腹が空いた、気がする。

食欲はない。

胃が痛い。

食べたくない。

食べたって戻しそうになるだけ。


放っておけばいい。

しばらくすれば気にならなくなる。


自然と瞼が落ちていく。


瞼の裏、真っ暗。


眠りにつくまでのほんの僅かな時間。


意識は今日の動物病院へ。


ハッと目を覚ます。


気持ちが悪い。

吐きそうだ。


冷蔵庫からお茶を取り出す。

注ぐのも面倒。

そのまま口をつける。


ソファに戻って項垂れる。


頭に先生に言われた言葉が巣食っている。


頭を振っても出ていきやしない。


『そろそろキュイくんを今後どうするか、決めましょうか』

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