第33話 小悪魔

「久しぶりだね〜キュイ!」


美帆がキュイを抱きかかえる。


「キュウ!」


なんだか機嫌が良さそう。


「なんか…痩せたか?」


店長が言う。


「最近太ったくらいだよ。おやつあげすぎたかもしれない」


「いや、キュイじゃなくてお前だよ」


「…そんなことない、と思う」


ならいいけど、と言ってキュイの方へ視線を向ける。


「キュイ〜、今日はいいおもちゃ持ってきたよ〜」


そう言って美帆は鞄からおもちゃを取り出す」


「じゃーん!ねこじゃらし!」


得意気に見せてくる。


「美帆…」


カラーボックスの上に指してある全く同じねこじゃらしを見せつける。


「残念でした」


「うえ!もう持ってたの!いいの見つけたと思ったのに〜」


「ちなみに全く反応しないよ」


「嘘!ショック!」


「勿体ないからこうやって花瓶にさしてるんだ」


「それ花瓶だったのかよ」


「…」


「無言で一本足さないで」



「おやつ持ってくるけどみんな食べる?」


「おー」


理人はキッチンに向う。

今日はオレンジを買ってみた。


(これ、皮剥かないといけないのか)


ちょっと面倒に思いながら剥いていく。


「キュイ!!」


大声が聞こえ、部屋の扉が勢いよく開けられる。


「どうしたの?」


「ご、ごめん!キュイの!キュイの足が!」


今にも泣きそうな美帆。

何事かと思ってキュイを見に行く。


そこには片足を引きずるキュイがいた。


「あ、遊んでて!膝から下ろしたら足が!」


それを聞いてとりあえず写真を撮る。


「キュイ」


名前を呼ぶと足を引きずりながらよたよたと近づいてくる。


膝に片手をかけ、登ろうとするが上手く登れない。

必死になんとか登ろうと足掻いている。


「その手にはのらないよ」


おでこをつついてやる。

どんどん首がすくんでいく。


観念したかのように向きを変え、何事もなかったかのように普通に歩いていった。


「えー!大丈夫なの?!」


絶叫する美帆。


「なんか飼い主に似て来てないか?」


余計なことを言う店長。


「もう私、キュイを信じられない…」


そう言いながらキュイを抱えようとする。


「キュウ!キュウ!」


威嚇。

見事な逆ギレ。

多分嘘がバレたのが美帆のせいだと思っているのだろう。


さっとトンネルの出口を美帆の膝の上に置く。


キュイは走り出してトンネルに勢いよく駆け込む。

勢いそのままに通り抜け、ポン、と美帆の膝の上に出る。


???

頭の上に?がいっぱい見える。

なんでここに?

ってわかってないみたい。


「ちゃんと謝らないとおやつあげないよ」


おやつ、と聞いて動きを止める。


切ったオレンジを持ってくる。


「悪い子にはあげないよ」


「ウウー」


顔をそむけて唸っている。


「ほら」


届かないところで見せる。


散々唸ったあと美帆に向き直った。


「キュウ!」


掌返し。

美帆の指を舐めながら身体を擦り付けて戯れ始めた。


「小悪魔だ!キュイが小悪魔になっちゃった…」


戦々恐々としながら撫で回している。


「やっぱ飼い主が良くないかー」


店長が何か言っていた。


ーーーー


タイトル『小悪魔』


また嘘をつき始めた。

すぐにわかるからいいけど。

実は嘘がバレた後のおやつが目当ての可能性も…。


足を怪我したフリをするキュイの写真を貼ってノートを閉じた。

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