第33話 小悪魔
「久しぶりだね〜キュイ!」
美帆がキュイを抱きかかえる。
「キュウ!」
なんだか機嫌が良さそう。
「なんか…痩せたか?」
店長が言う。
「最近太ったくらいだよ。おやつあげすぎたかもしれない」
「いや、キュイじゃなくてお前だよ」
「…そんなことない、と思う」
ならいいけど、と言ってキュイの方へ視線を向ける。
「キュイ〜、今日はいいおもちゃ持ってきたよ〜」
そう言って美帆は鞄からおもちゃを取り出す」
「じゃーん!ねこじゃらし!」
得意気に見せてくる。
「美帆…」
カラーボックスの上に指してある全く同じねこじゃらしを見せつける。
「残念でした」
「うえ!もう持ってたの!いいの見つけたと思ったのに〜」
「ちなみに全く反応しないよ」
「嘘!ショック!」
「勿体ないからこうやって花瓶にさしてるんだ」
「それ花瓶だったのかよ」
「…」
「無言で一本足さないで」
◇
「おやつ持ってくるけどみんな食べる?」
「おー」
理人はキッチンに向う。
今日はオレンジを買ってみた。
(これ、皮剥かないといけないのか)
ちょっと面倒に思いながら剥いていく。
「キュイ!!」
大声が聞こえ、部屋の扉が勢いよく開けられる。
「どうしたの?」
「ご、ごめん!キュイの!キュイの足が!」
今にも泣きそうな美帆。
何事かと思ってキュイを見に行く。
そこには片足を引きずるキュイがいた。
「あ、遊んでて!膝から下ろしたら足が!」
それを聞いてとりあえず写真を撮る。
「キュイ」
名前を呼ぶと足を引きずりながらよたよたと近づいてくる。
膝に片手をかけ、登ろうとするが上手く登れない。
必死になんとか登ろうと足掻いている。
「その手にはのらないよ」
おでこをつついてやる。
どんどん首がすくんでいく。
観念したかのように向きを変え、何事もなかったかのように普通に歩いていった。
「えー!大丈夫なの?!」
絶叫する美帆。
「なんか飼い主に似て来てないか?」
余計なことを言う店長。
「もう私、キュイを信じられない…」
そう言いながらキュイを抱えようとする。
「キュウ!キュウ!」
威嚇。
見事な逆ギレ。
多分嘘がバレたのが美帆のせいだと思っているのだろう。
さっとトンネルの出口を美帆の膝の上に置く。
キュイは走り出してトンネルに勢いよく駆け込む。
勢いそのままに通り抜け、ポン、と美帆の膝の上に出る。
???
頭の上に?がいっぱい見える。
なんでここに?
ってわかってないみたい。
「ちゃんと謝らないとおやつあげないよ」
おやつ、と聞いて動きを止める。
切ったオレンジを持ってくる。
「悪い子にはあげないよ」
「ウウー」
顔をそむけて唸っている。
「ほら」
届かないところで見せる。
散々唸ったあと美帆に向き直った。
「キュウ!」
掌返し。
美帆の指を舐めながら身体を擦り付けて戯れ始めた。
「小悪魔だ!キュイが小悪魔になっちゃった…」
戦々恐々としながら撫で回している。
「やっぱ飼い主が良くないかー」
店長が何か言っていた。
ーーーー
タイトル『小悪魔』
また嘘をつき始めた。
すぐにわかるからいいけど。
実は嘘がバレた後のおやつが目当ての可能性も…。
足を怪我したフリをするキュイの写真を貼ってノートを閉じた。
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