第31話 嫉妬
キュイを運動させる方法を考える。
ネットで色々と調べてみたが妙案は浮かばない。
ペットを運動させる玩具や方法はいくつか見つけたがおそらくうまくいかないだろうと思った。
理由は以前買ったねこじゃらしに見向きもしなかったことだ。
動物のことに疎い理人が想像するに何かを追いかけたりするのは狩猟本能みたいなことではないかと考えた。
サラマンダーは草食。
狩りはしないから多分追いかけたりしないだろう。
だからこそ困った。
犬や猫のように跳んだり跳ねたりが得意なわけではない。
そうなると出来る動きも限られてくる。
何かないかと店に行ってみる。
ペットショップではこれといったものが見つからない。
玩具屋さんに寄ってみる。
危なそうなものを避けていくと結局ぬいぐるみコーナーに行き着く。
ぬいぐるみでもいいか、と思って一通り見てみる。
この辺りで目的はキュイを運動させることではなくキュイが気に入る玩具探しになっている。
リアルな人形。
ゴム製の柔らかい、動物やキャラクターをかたどったもの。
手触りのいいぬいぐるみ。
キリンやライオンを模した、中々本物に近く見えるぬいぐるみ。
色々ある中で一つのぬいぐるみが理人の目に留まる。
青いダックスフンドをデフォルメしたようなキャラクターのぬいぐるみだ。
にっこり笑った口元と見開いた目のキャラクター。
なんのキャラクターかは知らない。
タグを見てみると英語で書かれている。
読む気ないのでタグを裏返すとロゴがあった。
『The Crazy animals』
直訳すると狂った動物たち。
なかなかどうして直球な名前だ。
言われてみると目を見開いて笑っているのは少し怖い。
しかし、これが気に入ってしまった。
怖さの奥に愛嬌がある。
迷わずレジに持っていく。
(キュイが遊んでくれなかったら部屋に飾ろう)
第二就職先まで決めてそのぬいぐるみを購入した。
家に帰ってぬいぐるみを取り出す。
あらためてタグをみるとロゴの下に小さく『マーブル』と書いてある。
名前かどうか知らないがウチではマーブルと呼ぼう。
早速マーブルをキュイと対面させてみる。
「ほら、新しいお友達だよ」
あきらかに警戒している。
少し振ってみせる。
眉間のシワが深くなる、気がした。
警戒度は上がったみたい。
マーブルの顔をキュイに向ける。
「キュッ!」
跳び上がって逃げられた。
一目散にトンネルの中。
(駄目かなぁ)
少し残念に思う。
でももう少し様子をみよう。
慣れれば遊んでくれるかもしれない。
「キュイ」
応答はなし。
「キュイ」
反応はなし。
トンネルから出てくる気はなさそう。
こういう時は奥の手だ。
おやつの梨を持ってくる。
「キュイ、おやつだよ」
呼んでから気づいた。
そもそもの目的はダイエットだったような気がしたが何も気づかなかったことにする。
仕方がない。
新しい玩具で遊んでほしいのだ。
おやつ、と聞いてトンネルが跳ねる。
しかし出てこない。
「おやついらない?」
聞いてみると慌てたようにトンネルから飛び出してきた。
そして目の前のマーブルを見てとんぼ返り。
反対側から出てきた。
一直線に膝の上に登る。
そのまま腕に手をかけて二本脚で立つ。
食べさせ辛いな、と思いながらもあげていく。
気のせいか食べる速度が早い。
さっさと食べてさっさと逃げる気だろうか。
予想通り2切れ食べた辺りでトンネルへ逃げていった。
余程怖かったのか指を舐めることもせずに。
(やっぱり駄目だったか…)
そう思って何気なくマーブルを膝の上に乗せる。
(梨も全然食べてくれなかった)
いつもなら5、6切れ食べるところが2切れで逃げていってしまった。
余った梨を見てなんとなく一つ食べてみる。
「うっま!」
思わず声が出た。
最近、調子が悪かった理人は食欲がなく、食べても美味しいと感じなかった。
それが
(梨ってこんなに美味しいんだっけ?)
そう思うほど身体の芯に染みわたった。
無意識に残っていたキュイ分を食べきってしまった。
自分用に持って来ようとキッチンへ向う。
マーブルを抱いて。
梨を切ってキュイ部屋の柵の中に戻る。
やっぱり梨がとんでもなく美味しく感じられる。
半個分くらいを切ったはずだがあっという間に食べきってしまった。
久しぶりに満足出来た。
無意識にマーブルを撫で回すくらいにご機嫌になった。
食べ終わってその場で横になる。
丁度トンネルの中が見える位置。
キュイがこちらを見つめていた。
口を開いたまま。
(何、その顔?)
見ているとと目尻が釣り上がっていく。
怒ってる?
そう思った瞬間、キュイが顔に向かって突撃してきた。
驚いて身体を起こして避ける。
するとキュイは無防備になったマーブルめがけて体当たりをする。
そしてそのまま柵に押し付けるまで引き摺っていった。
(そんなに嫌いだったの?)
少し寂しくなる。
もう外に出そうと手を伸ばすと慌てたように膝の上に登ってきた。
そして目一杯背伸びをして腕に頭を擦る。
「撫でてほしいの?」
お望み通りに撫でてやる。
するといつも以上に甘えてくる。
「キャルル」
満足そうな鳴き声。
しっかりと写真に収める。
しばらく撫でてやっていたが一向に膝から降りない。
(あ、もしかして特等席を取られたとおもったのかな?)
ちょっと嬉しくなっていつも以上に撫で回した。
ーーーー
タイトル『嫉妬』
新しいぬいぐるみを買った。
名前はマーブル。
残念ながらキュイは気に入らなかったみたい。
でも面白いものも見れた。
マーブルを可愛がるとキュイが嫉妬するみたい。
これからもたまにマーブルを可愛がろうと思う。
口を開けたままこっちを見つめるキュイを撮りたかった、と思いながらをいつも以上に甘えるキュイの写真を貼った。
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