第27話

机に向かって意味のない時間を過ごす。

なんのアイディアも生まれず時間だけが過ぎる。


キュイが動いた音で現実に引き戻される。

キュイの脱走対策に応急処置として柵の内側にダンボールを貼った。

爪が引っかからなければ登れないだろうと思って貼ってみたが狙い通りに脱走は防げている。


(もうこんな時間か)


キュイのご飯とデザートを持ってくる。

今日のデザートは久しぶりのりんごだ。


「キュイ、ご飯だよ」


いない。

と思ったら脱走対策に貼ったダンボールが妙な形に膨らんでいる。


外から覗くと見事にダンボールと柵の間に挟まっていた。


ひとまず写真を撮る。


「それ、出れるの?」


外からお腹をつついてやる。


身体を動かして抜けようとするが抜けられないらしい。

動き回ったせいで挟まったまま逆さまになってしまった。


「ほらほら」


可愛くなってさらにつつく。


「キュ、キュウ!キュウ!」


怒っている。

早く助けろ!

そんな感じだろうか。


ダンボールを持ち上げて隙間を作ってやる。

すぐに脱出する。


「楽しかった?」


気のせいかどこか不機嫌そうに見える。

ご飯をあげながら撫でる。

ちょっとだけまだ不満気だ。


秘密兵器を出す。


好物のりんごだ。


一気に目の色が変わる。


「キャルル!」


飛びかかってきて指ごと食べられそうになる。


「大丈夫だよ。逃げないから」


聞こえてない。


指についた果汁を1滴残さずしゃぶり尽くされる。


それからキュウに膝から首元まで登られる。


びっくりして倒れそうになる。


「まだりんごあるよ。いらない?」


久しぶりのりんごだったせいかテンションが上がりきっている。

首に顔をぐりぐりと擦り付けてくる。


「くすぐったいって。ほら、りんごあげるから」


予想外のアクションを起こされる。

一度肩まで登ってそこから飛び降りた。


パチン、と着地音がなる。


「うぇえ、大丈夫なの?」


慌てる理人などお構いなくりんごに食いつく。


(実は骨折れてるとかないよね?)


心配するが本人はお構いなしにりんごを食べている。


大丈夫だったのだろう。

また撫で始める。


食べ終わったキュイはハイテンションで遊び始める。


理人は自分の食事を食べにリビングに向かう。


何を食べようか、考えながらふと手のひらを見た。


手には白い細かい毛がたくさんついていた。


(何だコレ?)


服を見ると身体中についていた。


(キュイか)


キュイの白い毛はどんどん抜けてきている。


頭は目の上まで。

後ろはお尻が見えている。


どんどん大きくなっていく。

どんどん大人になっていく。


手についた毛を洗い流す。

服についた毛は粘着テープのコロコロで取っていく。

ズボンの後ろまでついている。


コロコロコロコロ。

身体を捻って取っていく。

ずっと下を向いていたせいかバランスを崩して倒れそうになる。


(危なかった…)


立ち上がろうとすると視界が暗くなる。


(頭に血が登ったみたい)


そのまま這うようにしてソファに向かって寝転がる。

気持ちが悪い。

服を脱いでからやればよかった。


反省しながらも小さくえずく。


(吐きそう…)


しばらく横になっていると理人はそのまま眠ってしまった。

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