第26話 成敗
今日も机に向かっていた。
時間があまりないのだ。
書き溜めていたアイディアは全てがつまらなく思えて処分してしまったせいで。
とにかく描く。
下書きだけでも描く。
煮詰まって顔を上げた。
人間の目は優秀だと思った。
視界の端。
僅かに動く何かがあった。
ゆっくりとその正体の方を見た。
そこには今まさに、柵を乗り越えようとするキュイがいた。
現行犯で逮捕する。
トリックは簡単。
網目になっている柵に爪を引っ掛けて登っていた。
(ケージからは出られなかったのに柵からはすぐに出るんだ)
不思議に思いながらも犯人をケージに入れる。
しかし盲点だった。
爪のことを考えれば登られると気づけたかもしれない。
(そんなことより…)
柵をどうしようか。
使い続けることはできない。
かと言って新しいものを買うのは勿体無いし、財布にも厳しい。
(爪が引っかからないようにすればいいのか)
アクリル板でも貼ってみようか。
考えているとガタガタとケージから音がする。
「出たいの?」
そう聞くとキュイは扉の前で待機する。
「柵、乗り越えたりしない?」
「キュ!」
「じゃあ約束だからね」
多分また乗り越えようとするのだろうな、と思いながらケージの扉を開ける。
「もし柵を登ろうとしたらすぐに戻すからね」
キュイはじっとこちらを見ている。
(まだ出られないの?)
ケージからはまだ出られないようだ。
「出たいなら自分で出てよ」
しばらくこっちを見つめていたが出してもらえないと分かると渋々といった様子で自ら外に出る。
(…なんかとんでもない嘘つきになってきてない?)
ケージの外に出たキュイは走り回っている。
理人の膝によじ登り、また走って今度はトンネルに突入し、勢いよく出てくる。
大はしゃぎでそれらを繰り返している。
ぐるぐる何度も繰り返す姿をなんとなく眺めていた。
勢いよくトンネルに突入して…
視界から消えた。
トンネルを通るたびに出口の位置がずれていたのだ。
出口は理人の後ろに向いていた。
そしてカチカチと真後ろで音がし始めた。
振り返る。
柵を登るキュイ。
どんどん登っていく。
てっぺんまであと10cm。
そこまで見守って行き先を手で塞いでやる。
横に移動して迂回しようとする。
合わせて手を動かす。
しばらくすると力尽きたのか下に落ちる。
「キュウウウ!」
すぐに理人に毛を逆立てて威嚇する。
「先に約束を破ったのは誰?」
鼻をつつきながらそう言ってやる。
打って変わって指を舐めてくる。
「駄目。戻すよ」
捕まえると暴れる。
問答無用でケージに戻す。
とぼとぼと奥に歩いていく。
寝床まで行ってしおらしくしている。
ちらりとこっちを見た。
さらにしょんぼりとした姿を見せる。
(反省してないな)
仕方ないと思った。
「今日はおやつ抜きね」
そう言ってやった。
じっとしていたが突然ゴロンと転がりお腹を上にした。
「ウウゥ」
何か唸っている。
「お見通しだよ」
そう言いながら写真を撮った。
しばらくキュイはそのままだった。
ーーーー
ノートを開く。
タイトル『成敗』
最近、キュイの素行が悪い。
特に嘘をつくようになってきた。
サラマンダーは頭がいいと聞いていたが想像以上。
なかなかの知能犯。
檻の中で罰を受ける犯人の写真を貼ってノートを閉じた。
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