第25話 事件

トンネルを設置してから数日。

相変わらずケージの出入りから外には出て来ないがトンネルを通して外に出るようになった。

それから柵の中を歩き回る姿も見られた。

結局は慣れの問題だったのだろう。

トンネルも思っていた使い方と違うがこれはこれでよかった。


今日のバイトが終わった。


帰ってすぐにキュイ部屋に向かう。


「ただいまー。いい子にしてた?」


え?





え?


部屋が荒らされている。


ボロボロのティッシュがそこら中に散らばっている。


(ど、泥棒?!)


一瞬そう思ったがだとすればティッシュをばら撒く意味がわからないと少しだけ冷静になる。


(キュイは?!)


柵の中にはいない。

ケージの中にもいない。


(まさか本当に?)


頭の中が真っ白になる。

連れて行かれてしまったのだろうか。


「キュイ!」


ガサガサと音がした。

どこかにいる。


「キュイ!」


もう一度呼んだ。


「キュ?」


いた。


出てきた。


ひょっこり顔を出した。


カラーボックスの一番下の段。


ボロボロになったティッシュの山の中から。


(よかったぁ)


一気に脱力した。


すぐにキュイを捕まえた。


随分と楽しそうにしている。

久しぶりに目がキラキラだ。


「イタズラしたら駄目だよ」


キュイはどこか不満気だ。


(それにしてもどこから出たんだろう…)


答えはすぐにわかった。


理人が出入りに使っていた柵が少しだけ開いていた。

この隙間から抜け出したのだ。


(これからは気をつけよ…)


キュイをケージの中に入れる。


柵の隙間は2、3センチだった。

こんな隙間から?と思ったがそれ以外考えられない。

きっと通れるのだろう。


(そんなことよりさ)


無惨に散らかされたティッシュの山を見る。


(これ、今から片付けるの?)


ため息なんてもんじゃない。

大声で叫びたい気分だ。


掃除機で吸ったら詰まりそうだ。

とにかく手で集めて最後に掃除機で吸うしかないたろうか。


嫌気なんてもんじゃない。

白目を剥きそうだ。


キュイを見る。

何か期待した目で見てくる。


(ご飯ね、そういえば)


キュイにご飯をあげる。


それから片付けをしようとする。


キミのせいだよ、とは言い切れない。

しっかりと柵を閉めなかった自分にも非はある。

それは認める。


(でもこんなに散らけなくてもいいじゃん)


ティッシュの山の写真を撮る。

強いて言うなら戒めだ。


片付けは結局、日を跨いだ。


(お腹の空いた…)


力尽きた理人はそのまま眠った。


ーーーー

ノートを開いて昨日のことを思い出す。


タイトル『事件』


キュイが逃げ出した。

原因は柵をきちんと閉めなかったこと。

これからは必ずきちんと柵を閉めること。

でないとこうなる。


ティッシュの山の写真を貼ってノートを閉じた。


ーーーー


理人は机に向かっていた。

最近はあまり時間がなかった。

久しぶりに集中していた。


横でキュイが遊ぶ音がする。

初めは気になったがすぐに慣れた。


「ん~~」


一段落ついて伸びをする。


その時だった。

何かが足を触った。


「うわ!」


驚いて足をあげる。

机に膝をぶつける。


(痛っ、なんなの…)


机の下を覗く。


白い毛の動くもの。


キュイだ。


(また逃げ出してる!)


慌てて捕まえて柵を確認する。


(あれ?ちゃんと閉まってる)


他のところも確認する。


抜け出せそうな隙間はない。


(じゃあ…どこから…?)


その日理人は思い出した。


キュイは脱走魔であることを…。

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