第23話 キュイ部屋


「やっと完成した」


3段のカラーボックスの組み立てはすんなりと終わった。

しかし、柵の組み立てに苦労した。

難しいとかではなくただスペースがなかった。


1時間の格闘の末、完成した。

それを設置していく。


タイルカーペットを敷いたところを囲うように柵を設置する。

完成。

とりあえず完成の写真を撮る。


一つ、今更懸念点がでてきた。

腰ほどの高さの柵なので跨いで出入りしようと考えていたが危ないように思えた。


なので柵の繋ぎ目を一箇所外しておいてそこから出入りする事にしてみた。

問題が起きたらその時考えよう。


(なんか後回しが多いような…)


自分の短所に目が行きそうになる。

今は設置が優先だ。


カラーボックスを柵の外に設置する。

カラーボックスの中身は一番上の段におもちゃ、二番目にはキュイ用のタオルなんかを入れておく。

一番下の段には…この前まとめ買いしたティッシュをしまった。


完成したキュイ部屋をみる。

満足する出来だ。

少し狭かった気もするがそれは狭くなった時に調節すればいい。


(しかしなんと言うか…)


寂しい。

せっかく新しくスペースを作ったのにがらんとしている。


ケージごとキュイを入れて出入り自由にしておくつもりだ。

しかし、出入りが自由になっても出た先に何もなければあまり意味がないように思える。


(また出費が…)


仕方ないと思いながらも痛いものは痛い。


(たくさん買いたいけどキツイなぁ)


そもそも何を入れようか。

とりあえずはボールとアヒルにしようか。

あとはクッションなんかを買おうか。


うーん、と考える。


(でもまずは)


キュイの引っ越しを終わらせよう。


ケージごと、揺らさないようにゆっくりと運ぶ。

角に設置してケージを開ける。


「出ておいで」


出てこない。

今まで自分でケージから出た事がなかったのかもしれない。


(自由に出入りできるようにするならスロープみたいなのをつけた方がいいかも)


そう思いながらケージに手を入れる。

珍しく逃げられる。


「どうしたの?」


出てこようとしない。

それどころか奥で縮こまっている。


(場所が変わったから警戒してる?)


キュイは変化を気にしないと思っていたがそうではないのだろうか。

しばらく様子を見てみることにした。


ダンボールで簡易のスロープを作る。

それをケージの入り口に置いておく。


そのうち出て来るだろうと思って柵の中で寝転がってスマホを見始める。

動画を見て、ネットサーフィンをして、買い物をして、調べ物をして。


気づけば1時間が経っていた。


(キュイはどうなったかな?)


相変わらずケージの中にいた。


食べ物で釣ろう、そう思って取りに行く。

ちょうど良さげなとうもろこしがまだあった。

何粒か持って戻る。


「キュイ、おやつだよ」


一粒食べさせる。


「もう一つ」


入り口まで誘導する。


「はい、次」


スロープの真ん中辺りで見せる。

じっと見てはいるが出てこない。

スロープの中腹に置いて指で叩いてコンコンと呼んでみる。


じっと見ている。


しばらくとうもろこしを見つめたあと、顔をあげてこっちを見てくる。


なんでそこに置いた?

そう言いたいようだ。


「ここまでおいで」


コンコンと音を立てるがこっちの顔を見てくる。


「キュイ、ほら、とうもろこし」


じっとこっちの顔を見てくる。


「キュイ」


無反応でこっちを見てくる。

しばらく無言で見つめ合う。


根負けする。


近くまで運ぶ。


動かない。


口もとまで持っていく。


やっとわかったか、そんな様子で咥えて奥まで戻っていった。


(なんだろう。この敗北感…)


理人はその場で寝転んだ。


ーーーー

ノートを開く。


タイトル『キュイ部屋』


ひとまずキュイ部屋が完成。

まだ寂しいので何かを置きたい。

候補はクッション。

キュイは警戒して出てこないのでしばらくは様子見。


完成したキュイ部屋の写真を貼ってノートを閉じる。

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