第19話 轟音

ご飯を終えたキュイと遊ぶ。

最近のお気に入りはもっぱら美帆にもらったアヒルの人形とテディベアだ。


キュイが遊んでるよ、と写真をつけてメッセージを送る。

ハイテンションな返答が返ってきたが返信が面倒になって一旦放置する。


アヒルとテディベア。

一番大事にしているのはテディベアだが一番のお気に入りはアヒルのようだ。

2つを一緒にわたすと必ずアヒルに飛びつく。


飛びついて

噛みついて

振り回して

踏みつけて


そんなに憎いの?

と思うくらいにボコボコだ。


しかし、攻撃しているのではなさそう。

例えるならヤンチャな兄弟が戯れているみたい。

対等な存在だと思っているのだろう。

そう思わないとアヒルが不憫なのでそう思うことにする。


一方でテディベアは本当に大事にしている。

どこかに運ぶとき以外噛みつかない。

運ぶときもなるべくゆっくりだ。


何がそんなに好きなのか。

テディベアそのものかそれとも色とかなのか。


なんにせよアヒルとテディベアはお気に入りだ。

次のおもちゃも人形にしようか。

それとも別のものの方がいいのか。

そんな楽しい悩みが増えた。


(さあ、そろそろ片付けよう)


自分が食べたいあとの食器を片付けねば。

キュイをケージ戻す。

アヒルとテディベアを回収しようとしたら見事なディフェンスを決められたのでみんなまとめてケージ戻してやる。


狭そう。

それほど大きくないと思っていた人形たちもケージの中では見事な存在感を放つ。


それに加えてキュイが大きくなった。

そろそろこのケージでは不便そうになっている。


キュイ部屋計画。

自分の部屋の半分をキュイのスペースにする計画。

当初は片付けやすい窓側をキュイにあげようと思っていたが窓ガラスがそばにあることが気になった。


不意に割れたり、キュイが割ってしまったり。

割れたガラスでキュイが怪我したり、誤って食べてしまったり。

様々想像が働いてしまう。


(割れたところからキュイが逃げ出したら…)


立派な前科者です。

そうなってはなりません。


計画は大幅な修正を余儀なくされている。

新たな計画を練りながらキッチンへ向かう。


(これも洗わなきゃ)


そう思って小皿に手を伸ばした時、持っていた食器の中から皿が一枚滑り落ちた。


パリーンと音立てて砕ける。


(しまった…)


落ちた皿の破片を拾い集める。

集めて袋に入れる。

大きな破片は集め終えた。

あとは細かいもの。

ガムテープでくっつけようと思ってガムテープを取りにいく。

ちらりとキュイを見る。


この世の終わりのような顔をしている。


「びっくりしたね。ごめんね」


手を入れて撫でる。

伝わったのかアヒル一撃、八つ当たりをして水を飲みに行ってしまう。


片付けにもどる。

ガムテープを持っていき、ペタペタとくっつけて破片を片付けていく。

大方片付け終えた。

丸めたガムテープをゴミ箱に捨てる。


(あれ?)


耳を澄ますとザァザァと外から聞こえてくる。

雨が振り始めたらしい。

窓は開けていない。

洗濯物も干していない。

大丈夫だ。

そう思った瞬間だった。


空に閃光が走った。


窓の方に目を向ける。

見つめて、

身構えて…


やっと轟音が響く。


ドーン!

ゴロゴロ


そして雨音が強くなる。

大雨だ。


(すごい音だった…)


そう思っているとドタドタと聞こえてるくる。

キュイだ。


「大丈夫?怖かった?」


予想外。

怒ってる。

アヒルをバシバシと叩いている。


宥めようと近づく。


「キュウ!」


毛を逆立てて威嚇される。

ケージに手を入れるとバシバシと攻撃される。


(なんで?)


また閃光が走る。


遅れて轟音が鳴る。


大暴れだ。

攻撃が激しさを増す。


(もしかして?)


雷、俺のせいにされてる?


「違うよ?これは雷だよ?」


聞く耳を持たず。

キュイはお気に入りを連れて寝床へ行ってしまう。


(どうしてこうなった…)


これから雷が鳴る度に怒られるのかと思うと寂しくなる。


(どうしてそうなった…)


寝床の入口は小さい。

無理やり連れ込もうとしたせいかアヒルとテディベアが頭だけを突っ込んだ状態になっている。

そこから無理やり中に入ろうとする。

見事に一匹と2体のお尻がはみ出してこっちを向いている。


頭隠して尻隠さず。


まさしくの状況を写真に収めた。


ーーーー

ノートを開く。


タイトル『轟音』


大きな音は嫌いみたい。

なるべく音はたてないように。

雷も嫌い。

めっちゃ怒る。

怒ってこうなる。


3つのお尻の写真を貼ってノートを閉じた。

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