第18話 お風呂

作業部屋を掃除する。

いずれは部屋を仕切って半分をキュイの生活スペースにしようと思っている。


「とはいえ物が多い」


もともと半物置部屋となっていた部屋だ。

使うのか使わないのか分からないものや無くしたと思っていたものが次々出てくる。


「ゴミは捨てればいいんだけどね」


ゴミとも要るものとも言えない、まだまだ使えるけど使うかどうかわからない物の断捨離に苦心する。

思い切って捨ててしまえばすっきりするのであろうがそれができないのが理人だ。


結局、よくわからないものの山が出来上がる。

とりあえず部屋の半分は空いた。

今回はこれで良しとする。


今日は掃除スイッチがオンだ。

次の掃除場所に向かう。


キュイのケージ。


(その前に…)


キュイのお風呂だ。

サラマンダーは水浴びをするらしい。

だからお風呂は入れても大丈夫だそうだ。


まずはダンボールハウスの準備をする。

お風呂の後こっちに移動させてそのままケージの掃除をする算段だ。


「キュイ、お風呂に行くよ」


なんのこと?と言いたげな表情。

最近はキュイの言いたいことがなんとなく分かるようになってきた。


ケージから出して風呂場へ。

よく見ると汚れている。

顔の周辺、それと下側が特に。

中から置き忘れていた掃除機を運び出してキュイを空の浴槽に入れる。


シャワーの蛇口を捻り、水を出して温度を調節する。

冷たい水で身体を冷やすよりはぬるま湯くらいの方がいいだろうと言う判断だ。


シャワーの音をキュイが興味深そうに聞いている。

温度も良さそうだ。

キュイにかからないようにシャワーを見せる。

まだじっと見ている。


少しかけてみる。

水を飲もうと口をパクパクする。


「飲水じゃないよ」


そう言いながら全身にかける。

ふわふわの毛が一気にしぼむ。

大きさもあってモップのように見える。


すかさず写真を撮る。


よし、満足してキュイを見ると


落ち込んでる!


俯いてしょんぼりしている。


トボトボ浴槽の角に歩いて震えている。


「ごめんね。すぐ終わるから!」


最大級の罪悪感に襲われる。


大急ぎでキュイを洗う。

泡でもこもこになったキュイを可愛いと思う暇もなく大急ぎで洗った。


「ごめんね。もう一回だけ我慢して」


もう一度シャワーをかける。

もう駄目だ、そう思ったのかその場で倒れ込んだ。

泡を落として抱えあげる。

すぐにタオルでくるんで身体を拭いてあげる。


目を閉じてぐったりしている。


(不安になるからやめて…)


心臓がバクバクになりながら身体を拭く。

キュイを拾った時のことを思い出す。

今にも死んでしまいそうになっているあの時を。


(とにかく乾かそう!)


ドライヤーをキュイにあてる。

風に濡れた毛がなびき始めたとき、


目がぱっちり開いた。


「キューー!」


風に大興奮。

腕の中から抜け出して全身で風を浴びる。


(なんなの、もう)


どっと疲れた。

寿命も縮んだ気がする。


本人?はそんなことはつゆ知らず。

乾き始めた毛をなびかせている。


しばらく風で遊んでやる。

腕が疲れて止める。


「キュウ!キュウ!」


もっと遊べと抗議している。


「ダメダメ、おしまい」


ドライヤーを片付けてキュイを抱える。

今まで以上にふわふわになった毛を撫でながら連れて行く。

ケージに戻されたキュイはまだ抗議していた。


ソファに倒れ込む。

ケージの掃除はまた今度だ。


「あーあ」


声に出してため息をついた。


ーーーーー

ノートを開く。


タイトル『お風呂』


シャワーは多分大丈夫。

でも死にそうなリアクションを取るから心臓に悪い。

ドライヤーは好き。

かなり好き。

付き合ってたらきりがないと思う。


最後にずぶ濡れのキュイの写真を貼ってノートを閉じる。

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